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もう何日こうしているのかわからないが,目の前に降り積もった埃が随分と時間が経っているのを教えてくれた。
子供の頃に過ごした自宅の屋根が僅かに見える高台にある,古い建物の一室で,カーテンのない汚れた窓から入る優しい風に吹かれながらゆっくりと沈みゆくオレンジ色の太陽を眺めた。
「どこだよ……ここ……」
割れるように痛む後頭部は,触れると大きく腫れ上がり,その部分の髪の毛が綺麗に抜け落ちていた。
子どもの頃にも見た記憶がある夕陽がオレンジ色から紅色へと変わり,紫色に呑み込まれて闇へと消えていく瞬間は,どこか別世界につながる不思議な境界線だと信じていた。
記憶のなかでは,小学校に通っていたころは普通に友達もいて一緒にゲームをやったり,公園で走り回ったりと楽しく過ごしていた。
当時の子供たちはこの夕陽から逃れるように,空の色を変えながら沈む太陽と競って家路を急ぐのが毎日の一大イベントのようになっていた。
中学校に通っていたころも半分以上が小学校から一緒に進学した顔見知りで,毎日を楽しく過ごしていた。あの頃はなにも疑うことなどなく,将来の自分は普通に高校へ進学し,大学に行くものだと信じていた。
いつの間にか夕陽に寂しさを感じることもなくなり,夕陽が沈んでいくなか塾に通う子どもたちの大人びた暗い表情をこれから現れる闇が隠していくように思えた。
薄く開いた窓の隙間から吹き込むほんの少し前まで暖かく優しかった風が,刺すように冷たく感じた。下からなのか上からなのかわからない,どこからくるのかわからない痛みを伴う棘のある風が,部屋のなかで肌を斬り刻むように肋骨の浮いた痩せ細った全身を撫でた。
誰もいない部屋の窓から観えるオレンジ色と紫色の混じり合う夕陽に照らされ,真っ黒なシルエットになった自宅の屋根を眺めながら大きなため息をついた。
「マジでどこだよ……ここ……」
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