夕陽が射し込む蟲の密室

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 誰もいないこの密室で大量の蟲に精神と身体を蝕まれ,自分が誰なのかも曖昧になっていた。 「ああ……なんて綺麗な星空なんだろう……星屑が降り注ぐこの部屋は,なんて神秘的なんだ……もしかして別世界にいるのか? でも……もういい。課金のできない世界には自分の居場所はないんだから……」  真っ暗な部屋は降り積もる大量の蟲で埋め尽くされ,辺り一面を真っ白く染めた。波のように蠢く蟲の隙間から,人の影が見え隠れし,蟲の動きに合わせてバラバラになった無数の骨が床を移動した。  蟲の波の隙間から見える母親と思われる小さな身体と,傷だらけになり懐中電灯を握りしめた父親は身を寄り添ったままミイラ化していた。  既に全身の感覚はなくなり,辛うじて自分の存在を確認できるのは僅かに残った意識だけになっていた。  天井から降り注ぐ大量の蟲が星屑に見え,窓のないコンクリートに囲まれた密室は壁にオレンジや紫色のシミが浮き出し,腐敗臭で充満していた。 「綺麗な星空だな……この壁紙も……悩んだ甲斐があったな……。父親のクレジットカードを黙って使って課金しまくってたのに,勝手にカードをとめやがって。だからクラスのやつらから盗むしかなかったんだよ」  蟲の重みが身体を押し潰し,身体の中を食い散らかしていく度に意識が薄れていった。 「もう……もう……レア壁紙も……レアアイテムも全部ゲットした……し,死ぬほどガチャ回したけど,結局,飽きたしな……サクッと……アイテム使って帰れたらいいのに……」  大量の蟲が後頭部から溢れ出し,内側から眼球が押し出され,最後の皮膚を食い破られると,降り積もる星屑のなかに埋もれ,積もった埃を掻き消すように痙攣を続ける指先がゆっくりと動かなくなっていった。 「な……なんだよ……これが最後ってやつか? だとしたら……最低だな。俺の人生……ただのクソゲーじゃ……ん……」
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