夕陽が射し込む蟲の密室

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 厚手のカーテンを固く閉め,外部の明かりが一切入らない部屋の壁にスマホの画面から漏れる光が薄っすらと模様をつくった。  もう高校には随分と通っていない。地元から随分と離れた高校には当たり前だが同じ中学校から進学した友人は誰一人いなかった。  父親の転勤を理由に見知らぬ土地の高校に進学したが,友達ができずいつまで経ってもよそ者扱いをされ,入学して半年ほどで決定的な出来事があり学校に行くのを自らやめた。  引き篭もる理由は些細な事で,体育の授業があった日に同級生の財布からお金がなくなったことがあり,ろくに会話もしない同級生たちに憶測で犯人と決めつけられたからだった。 「よし! レアアイテム!」  画面の小さなボタンを押す度に降り注ぐ星屑の中で,瞬い光とともに回転する宝箱が開かれると,七色の光とともにさまざまなアイテムが飛び出した。 「よし! 百連ガチャもう一回やっちまうか!」  何度目かの課金もすでに感覚が麻痺し,レアアイテムが出る度にいくら使っているのか考えることすらなくなっていた。 「お! ヤベェな,このアイテム。どこにいても一瞬で帰れるのかよ。ほぼチートじゃん」  ゲームを進めては自分がデザインした部屋に戻ってセーブし,アイテムを使ってまた先へと進んだ。  高校に行かないことを両親がなにも言わなくなってからしばらくして,度々リビングで言い争う声が部屋まで聞こえた。喧嘩の原因は自分だとわかっていたが,どうしようもできなかった。 「お前らの教育方針が間違ってたんだよ……うるせぇな,ろくに子育てできない者同士,勝手に喧嘩してろ……」  周りの騒音が大きくなればなるほどゲームに集中し,何度も課金してはガチャを回した。
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