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不安の払拭
桐山には二つの不安があった。
当然、その二つの不安を上回るだけのメリットがあるから共同作業の提案を申し入れたのだが、やはり払拭されるまでは安心出来ない。
直径五十センチの丸平型ボタンへ両腕を掛け、全体重を乗せて床下へと押し込んでいく。
ボタンが床に吸い込まれると、静かな音を立てながら第三のボタンがせり上がってくる。
一つ目の不安は、宮木側に現れる第三のボタンが、自分のところへと現れたボタンと全く違うものだったどうしようというものだ。
せり上がりが止まる。
現れたのは自分のところと同じ大きさのボタン。
「これね」
宮木が上辺へと飛びつく。
「ま、待てっ! 」
桐山は焦って声を掛ける。
形が同じでも、押し込むための力が違うかもしれない。
「確かにこれを押し込むのは無理そうね」
掴まっていた手を離して飛び降りた宮木は、パンパンと手を払って報告する。
「勝手なことをするんじゃない。
俺のボタンで作業するのが約束だ」
冷静さを装って睨みつける。
宮木はその睨みをサラッと躱し、
「分かってるわよ。
借り分はきちんと返すわ」
桐山側の第三のボタンへと歩いて行く。
桐山もそれについ従いし、先程登った時と同じように、上辺へ手を掛け、肘を付けて両掌に力を入れてボタン上面へと登り切る。
「さぁ」
宮木を引っ張りげるために右手を下へと伸ばすと、細くて冷たい指先と温かい両掌がそれを掴む。
「せぇーのっ! 」
力を込めて上へと引っ張り上げると、宮木の両足が軽やかにボタン側面を蹴り上げる。
重みをほとんど感じなかった桐山はボタン上面でよろけ転がり、宮木はフィギュアでも飾るかのようにスタッと降り立った。
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