氷の女と、夏の海と、きみの告白

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「「「う、わあああああっ」」」  何とも間の抜けた声が、一切がっさいを吹き飛ばしてしまったのだった。  近くの岩陰から転がり出てきた二人の男子生徒に、中森智哉がすっとんきょうな声を上げる。 「は!? や、安川、吉野っ!? お前らなんで」 「ああくそ、痛っ」 「おい安川、ふざけんなよ、お前が押すからだぞ!?」 「ああ!? オレのせいだって言いたいのかよ。だいたい吉野、お前が中森のこと冷やかしに行こうなんて言い出すから」 「だけど……そうだったんだな、中森。お前ずっと氷の女……あ、いや緒方のこと」 「くそ、泣けてくるじゃねえか。よかったなあ中森、長年の片思いが報われて――」  しかし彼らは、黒々としたオーラをまといながらゆらりと立ち上がった中森智哉を見上げて、一瞬にして凍りつくことになる。 「お前らぁ……? ぶっとばされる覚悟はもう、できてるんだろうなあ……?」 「うわあっ!? いや、悪かった。悪かったってば中森! あと少しのところだったんだよなっ! ほんとすまん!」 「わ、悪気はなかったんだよ。許してくれえ!」 「許すわけないだろ、待てこの変態覗き魔野郎どもっ!」 「――っふふ、あははっ!」  そのやり取りを聞いていて。  ついにこらえきれなくなって笑い出したわたしを、三人はそろって口をぽかんと開けて見つめてきたのだった。 「え……。嘘、だろ?」 「氷の女が、笑った……?」  それからというもの。  わたしが「氷の女」と呼ばれることはほとんどなくなった。  その代わり、中森智哉はクラスメイトからとある安直なあだ名で呼ばれることになる。  彼は氷の女への数年もの片思いで、ついにその氷をとかしてみせた。  いわく――炎の男、と。
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