氷の女と、夏の海と、きみの告白

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 事件が起きたのは午後のホームルームの時間だった。 「さて、ホームルーム始めるぞ。今日は来週の校外学習についてだ」    担任教師の声に気だるく顔を上げれば、黒板には「校外学習 〇〇海浜公園」と白チョークで書かれてある。  気が重い行事だ、と思う。  ……どうでもいい。自由参加にしてくれればいいのに。  海に近いこの中学校では、夏になると毎年校外学習で海に行かされる。  水族館を見学した後は、海で泳ぐなり海辺の店を探索するなり――まあ、新しいクラスに慣れてきたところで、仲良くなってきた友だちと楽しもう、というような趣旨の行事である。 「よっしゃあ!」 「夏だ! 海だ! 勉強サボりだ!」  どっ、とクラス中が騒がしくなる。  騒がしいのは苦手だ。  読みかけの本を開いて、帰りのチャイムが鳴るのを待つ。  ……と。 「ああくそっ、負けた!」 「嘘だろ、やった! 中森に勝った!」 「マジかよ。あんだけ無敗だったのにな。つか中森、今日なんかぼーっとしてね? 気のせい?」  ホームルーム中、関係ないことで時間をつぶそうとしているのは、わたしだけではなかったらしい。  ちらりと横に目を向けると、窓側にいるわたしとは反対側――廊下側に椅子を寄せて集まった男子三人が、スマホを付き合わせて一喜一憂していた。どうやらゲームの対戦でもしていたらしい。  すかさず、担任が廊下側に怒鳴る。 「こら中森、安川、吉野! 授業中だぞ、スマホはしまえ!」  三人が白けた顔をしつつ、やっとスマホをしまったところで、担任教師が話を続けた。 「よし。じゃあこれから三人で班を作るぞ。相談しておけって言ってたよな」 「はーい。カナ、レミ、一緒に行こー?」  ……三人、ね。  がたがたと席を立ち、班を作り始めるクラスメイトに構わず、わたしは本を読み続けた。  このクラス、二年三組は、男子が十五人、女子が十六人。  三人グループを作ろうとすれば、男子は人数的にぴったりだけど、女子は必然的に一人余ることになる。  そして余るのはもちろん、去年と同じでわたしになる。  去年は担任の指示でわたしを受け入れた班だけ、四人の班ということになったけど、実際には校外学習中は他の三人とは別行動をとっていた。  今年も、そういう流れにできればいい。  そう思っていたのだけど――  誰かが、机の前に立った。  ……誰?  何気なく顔を上げた途端、わたしは眉をひそめることになる。  そこには、予想もしなかった人物――中森(なかもり)智哉(ともや)が、なぜだか緊張した面持ちで立っていたからだ。  ……そしてその後、突如として告白され、今に至る、というわけである。 
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