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隼人へのホリデイの誘惑に失敗したたぁくんとヒロヒコだったが、これっきりの仲じゃあるまい、と引き止めずあっさり見送った。
鳥飼病の対象の七面鳥から人になったことでニーアムが距離感を無くしたり、フリーが紳士的な人間に恋したりと賑やかで軽やかな夏と秋を過ごし、季節はまたクリスマスシーズンを迎えた。
背丈の倍の雪を一昼夜で降らせたとは信じられないほどの晴れた眩い朝だった。幼い子どものように外へと駆けだしたヒロヒコは上がらない気温の中きらきらと太陽に反射する樹氷に目を奪われる。
「ヒロヒコ。」
たぁくんは隣に立ち形を確かめるようがしりとヒロヒコの肩を抱く。たぁくんの赤金の髪もヒロヒコもまた光を纏いきらきらと燦めいた。それで2人は何故か安堵した。雪に祝福される明るい陽射しの中、肩を抱く力強い腕を信じられるように、ヒロヒコはもう二度と七面鳥には戻らないだろう。
厨二病が見え隠れする隼人からなんとか聞き出した日本の山間の隠れ里に暮らす黒髪黒目の魔女に高級茶葉と焼き菓子を贈る日本人の風習を模倣したヒロヒコは、クリスマスプレゼントも贈ることにした。大きな大きな真っ白いふわふわの躰にソフビのウルトラ怪獣のような皮膚感の赤い頭部の立派な七面鳥だ。生きたまま空輸されていく。空港の検疫を通り、彼らは家禽として運搬され、やがて隼人の働く自宅と恩のある件の魔女の家に届くだろう。隼人の曾祖父は大層名のあるシェフだと聞いた。七面鳥は美味しく料理されるだろうか。そう上機嫌で問いかけるヒロヒコにたぁくんは、首を傾げた。
「知らなかったのかい?日本人はクリスマスにはチキンをたべるんだよ、ヒロヒコ。」
「、、あれは、七面鳥に気を遣った冗談じゃなかったのか?うそだろ、タラ?」
「ホントさ。誰も彼もがチキンを食べてるんだよ、ホントに本当なんだ。」
「「全く以ていかれてる。」」
肩を竦める仕草まで息の揃った義兄弟は暖炉の前で老犬達にもたれ呑気に笑う。クリスマスプレゼントにと贈った七面鳥は食されずに異国でも逞しく生きるだろう。
「これまでのクリスマスはデッドオアライブから抜け出すチャンスだったんだ。七面鳥の形では『生きていても死んでいても同じ』。だからサンタクロースに願ってたんだ。」
「今年は何を願うんだい?」
「家族旅行に行ってみたい。タラは?」
「ボクは毎年変わらないよ。もちろん今年も。そうだね、うん、家族旅行は日本にしよう。」
七面鳥に敬意と感謝を込めて祈ろう。サンタクロースにプレゼントをリクエストしよう。メリークリスマス。良いお年を。よい新年を。願いの叶った2人はただただのんびりと暖炉の前で寛いで未来を馳せている。
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