七面鳥は願う

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七面鳥は願う

ボクが日本人である、と証明するのは難しいだろう。 逆にボクが日本人ではない、と証明するのは容易い。まずは見た目。黒髪黒目でも平たい顔でもない。それどころか七面鳥だ。灰色の混ざる毛色は好まれず頭部が灰色よりで赤が薄いのも好まれないが、黒羽ですらない白い七面鳥(家禽)だ。こうなるとボクが日本人である証明は非常に困難になってくる。人ですらない。 ボクを対等に扱うサディアス(タラ)には感謝しかない。快適な衣食住を与えられる対価として差し出せたのは犬語の通訳だ。七面鳥の言語が理解出来なかったのは人だからではなく相互理解できなかったからかもしれない。ボクの母国語は日本語だ。タラから英語を教わりボクは日本語を教えた。タラの母親から経済を教わりデイトレードで恩返しをする。野生の勘よねぇ、独り立ちしていいわよ、と早々に彼女はボクを起業させた。書面上のボクとタラは義兄弟になっている。英国籍を得た孤児だった日本人。見た目は七面鳥だが戸籍は人になった。 このまま七面鳥の形で一生を終えるのかも知れない、と思うには20年は十分な月日だった。七面鳥の寿命をとっくに超えてることから考えれば、ボクは七面鳥ではないのだが。 ボクは一体ナニモノなんだろう、と近頃は途方に暮れる。日本人のヒロヒコ。タマゴの中で覚醒した時からボクはヒロヒコだった。ヒロヒコとして矜持をもち生きたいだけなのに、この七面鳥の形はそれを難しくさせた。ボクを認める友人ひとり作れやしない。そして義兄になったタラは友人を城に招いたことが終ぞ無かった。 「友人が来るんじゃなかったのか?」 「その予定はとりやめだ。あいつはイヤなヤツだったんだ。全く以て腹立たしい。」 中高生時代(パブリック)でのやりとりを経てボクの存在がタラに人付き合いの線引きをさせてしまったのだ。 だから、こんな日が来るのを待ち望んでいた。泊まりに来る友人に兄が弟を紹介するなんていう当たり前の日常が訪れそうなこの日を。 だがまたしても、来る予定の友人は現れ無かった。落胆と苛立ちに蓋をしたボクは、ピアノ室から窓の外を眺めるタラも見ないふりをする。七面鳥の形ではままならないことがやはりあるのだ。諦めてこの身の悲劇的な人生を受け入れる時期なのだと2日間を過ごし 「「それで?!どうやって人間になった?!」」 ボクらは紳士としてあるまじき大声で叫んで詰め寄っていた。この2日のトラジックヒーロー(悲劇の主人公)なぞボクの矜持の対極だった。何を馬鹿な。何が何でもボクはヒロヒコとして生きる。 そう、タラが招いた友人は2日遅れてやって来た。ちょうどクリスマスイブだった。 黒髪黒目の侍ポーカーフェイスで、息をするように悪態を吐く物腰の低い日本人の青年。 赤い衣装も髭もない隼人(プッサン)こそがボクらが待ち望んでいたプレゼント(希望)を抱えやってきたサンタクロースだった。
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