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ウイッシュカムスルー
「なるほど。人間の魂と自身の魂を入れ替えればその人間になれると。」
ネットで拾った最終回での妖怪人間達の結末はわからなかったが、やり方は知れた。神妙に肯くたぁくんに薄ら寒いものを感じ隼人は、ヤメロよな、と牽制する。
「アニメだからな?半世紀も前の。魂の概念ってなんだ英国人。ヒロヒコはヒロヒコの魂でその七面鳥なんじゃん。つまりもうヒロヒコだ。わかるか?」
「「死体にする日本人がいればいいってことか。」」
「犯罪の匂いしかしねぇ。」
飲み干したティカップの底の牛乳の薄皮がこびりつく惨めな果物柄をしげしげと眺めた七面鳥は、そう簡単では無いかもしれない、と自分を棚上げしてたぁくんを窘めた。そうして物憂げにソーサの金彩を羽毛で撫であげ、怯えを見せる隼人に、わかってるさ、と微笑む。
「カップと中味の相性もあるだろう?」
「そうか。ヒロヒコに似た日本人を選ぶべきだな?」
「やっべー計画してんなよっ!?」
「わっふん。」
「、、、もうこんな時間か。」
フリーの割り込みに、たぁくんは犯罪への熱量を下げた。見計らったようにコンコンコンとノッキングされ、お仕度が調いました、とドアの向こうから声がかかる。
「わかった。プッサン、クリスマスディナーに招待だ。ヒロヒコも顔くらいは出してくれ。」
「ニアも来るんだろう。ボクは「妹はもちろん来るよ。クリスマスの夜くらい家族は一緒に過ごすべきだ。」
「くぅん。」
咥えて来た楕円の蔓編みカゴをたぁくんの足元に落としジュニアは七面鳥の足元に伏せた。たぁくんはジュニアの傍らに跪き、カゴのクッションの下から胴輪を取り、お利口だね、と装着する。安全ベルトと組み合わされた特注品の胴輪は蔓編みカゴを背負わせるためのものだ。タフティの乳母がゆりかご代わりに造り、たぁくんも随分と世話になった。七面鳥は小さな頭部をイヤイヤするように横にふる。
「ニアにとってボクは厄介な七面鳥だ。」
「今夜のディナーは家族で一緒にと母に手紙を渡したんだ。君は家族だ。」
「タラ、、」
「いや俺が行き辛いわ。」
突然始まったシリアスな空気に隼人はいたたまれない。隼人の日程なら今頃はロンドンだった。とんぼ返りの強行日程は互いの予定を鑑みた結果だったが、それでも1日もあれば十分な商談を二晩にしたのは旅行気分を味わいたかったからだ。俺の方がよっぽど招かざる客じゃねえか、と溢し慌てて口を押さえた。
「くぅん?」
ジュニアの催促と、やべーやべーと目を泳がせる隼人に、七面鳥は重い腰をあげその攻撃的に厳つい脚を蔓編みカゴへと運んだ。先導するフワリに続くジュニアの背カゴに座る七面鳥の隣にはフリーが付き添う。後ろから着いていくたぁくんは、首を捻る隼人に上機嫌で話しかけた。
「?プッサン?どうかしたかい?」
「食材が運ばれてるようにしか見えねえ。」
「七面鳥とクリスマスは因果だからね。」
「全くだよ、兄弟。死ぬか生きるかだ。」
足音のしない廊下に厳かなバリトンボイスが神妙に響いた。
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