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第一話
「こっちみて、ドナロッテ様〜!」
十年間つづいた中央大陸の平和を祝うべく、四大国の代表がフリンス帝国に集結している。
広大な城へとつづく大通り。
道沿いの石造りの門柱には、各国の紋章旗が掲げられていた。
帝都をまわる四国の驕奢なパレードを一眼みようと、道の両脇には観衆でごった返している。
行進曲の高らかな吹奏と共に、フリンス帝国の名高い『白銀の騎士団』が隊列を進めば、どっと歓声があがった。
その熱気に気圧されたのか、先頭のドナロッテの表情はやや硬くみえる。
腰まで長い赤毛のポニーテールを風になびかせながら、ドナロッテはなるべく平然な態度で、前方のみに切れ長の黒眼をすえた。
鍛え抜かれたしなやかな筋肉。
女性らしく華奢ではあるが、長身のドナロッテの姿は、遠くからでも凛々しくみえる。
「うわ、男爵令嬢だと聞いたから可愛らしい子かと思ったが、こいつはデッケェな! これがフリンス帝国初の女騎士ってのか、……?」
「ああ、ドナロッテ様は公国の令嬢だが、馬上槍試合で皇帝に気に入られて、去年から騎士になったんだよ」
「は、どうせ義兄のツテだろ? 日頃から近衛騎士団の団員たちと手あわせをして、令嬢らしからぬ噂を流して皇帝の興味をひいただけだ。あれは最初から騎士の位を狙ってたんだよ」
「…… 馬上槍試合で命をかけてまでか?」
「だってあいつはただの養女だぜ? それにあの長身だろ? いい結婚なんさできねぇからさ、男爵家から追い出されないために必死なんだよ」
「はぁ? 勝手に知ったような口を叩かないでくれる? ドナロッテ様は我々女に新しい可能性をつくってくれたのよ? 結婚だけが唯一幸せになる道じゃない!」
「そうよ! ああ、私たちの希望ドナロッテ様〜。これからフリンス帝国に女の時代がって、きゃ〜、コシモ様〜! 素敵、こっちみて〜!」
女騎士の珍しさに飛び交っていた熱いヤジは忽ち消えた。
人垣は姿をあらわした『フィオラン共和国』の代表ーー『コシモ・ド・マルディチル』公に感嘆の声をそそぐ。
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