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最寄り駅についた。
達樹の気持ちとは対照的に、久しぶりの地元の空気は穏やかに澄み渡っている。
キョロキョロとあたりを見渡すと、近くの道の端に、知らないナンバーのワンボックスが停まっていた。
初めはその脇を通り過ぎようとした達樹だったが、運転席から手を振る人の顔を確認してようやく、その車こそが探していた車だったのだと気付く。
後部座席に乗り込んだ達樹は、バックミラー越しに運転席の女性に軽く手を挙げた。
「久しぶり、母さん」
「おかえり、達樹」
懐かしい母の顔に、達樹は久しぶりに少し笑えた気がした。
達樹が乗り込むとすぐに、母さんは車を発進させた。
ハンドルを握る手の指には、細い骨の線が浮かび上がっており、車の振動で小刻みに震えているように見える。
「ちゃんと礼服着てきたんだね」
「当たり前だろ。子ども扱いするなよ」
「ごめんごめん」
屈託なく笑う母の顔に刻まれた無数の深い皺が、六年という月日の重さを知らしめる。
きっと達樹の知らない間に、多くのことが変わったのだろう。
「そういえば車、変えたんだね」
「そうなのよ。前の車は使えなくなっちゃったからねぇ」
母はひらひらと左手を振った。
その時服の袖が少しまくれあがって、腕から痛々しい手術痕が顔を出す。
「……そうだったね」
なんとなく気まずくなって窓の外に目をやる。
相変わらずの白黒テレビのような風景が、ゆっくりと後方に流れてゆく。
道行く人の服も全部白か黒に見えて、皆モノトーンコーデだなぁなんて、くだらないことを考えていた。
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