カラフル(リメイク作品)

3/8
前へ
/8ページ
次へ
 達樹と母と沈黙を乗せた車は、あっという間に目的地に辿り着いた。  車から降りた達樹は、母の隣に立ち、目前の小綺麗な建物へと歩く。  受付を通過し、直進した先の大きな扉をくぐると、そこには厳かな大部屋があって、さらにその中央に、無機質な長方形の箱が鎮座していた。  達樹はその箱に向かって静かに歩を進め、中を覗き込む。  そこにあるのは、もう一つの、懐かしい顔。 「父さん」  母と同じく歳を重ねたその顔から、もう「おかえり」の言葉は聞こえない。 「あれ、お兄ちゃんだ」  振り返ると、妹の美香が立っていた。  見違えた。  最後に見た時は野暮ったい田舎娘といった風貌だったのに、ばっちり化粧を施した今の姿は、達樹の住む渋谷でも十分通用しそうなクオリティーに仕上がっていた。  これが白黒でなければ、もっと映えたんだろうけど。 「今回は帰ってきたんだ」  今回は、という部分に静かな怒りを感じ、達樹はハッと息を呑んだ。  が、達樹を見る彼女の目に敵意は感じられない。どうやら、心の内から自然に出ただけの感想だったらしい。  しかし、そのことが余計に達樹を苦しくさせる。  妹の目に兄は、父親の死に目にも立ち会わない、人でなしに映っているのかと思った。 「そりゃ、帰ってくるさ。こんな時だもの」  達樹はぎこちない笑みを張り付け、語りかける。  血の通った普通の兄がそうするように。 「よく言うよ。あの時は帰ってこなかったくせに」  美香は責めていない。わかっている。  彼女は笑いながら、軽い調子で言った。  おそらく、ほんのジョークのつもりだったのだろう。  だけど、達樹には笑えないジョークだった。  返す言葉もなく、ズキズキと痛む胸を庇うように、俯き黙ることしかできなかった。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

15人が本棚に入れています
本棚に追加