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ズキズキとした頭の痛みで目が覚めた。
大学二年生になった達樹は、前日の飲み会のダメージを引きずったまま、昼過ぎまでベッドの中で惰眠をむさぼっていた。
一、二限はとっくに終わっているので、ここは三限に出るかどうかの選択だが、悩むまでもなく達樹は再び目を閉じようとしていた。
電話が鳴ったのはその時だった。
寝ころんだまま手だけ伸ばてケータイを掴み、寝ぼけたまま通話ボタンを押す。
「達樹、落ち着いて聞いてくれ。母さんが事故に遭った」
普段は寡黙な父の声が聞こえた瞬間、眠気は吹き飛んだ。ケータイを持つ手が緊張で震える。
「事故って」
「車を運転しててな、家の近くの交差点で、信号を無視してきた車に、横から追突されたらしい」
「それで、母さんは」
「しばらく入院することになるけれど、とりあえず命に別状はないそうだ」
「そうか。良かった」
良かった。本当に。
ふぅ、っと安堵の息が漏れた。
「それでなんだけどな、お前、一回こっちに帰って来られないか? 顔を見せて、母さんを安心させてあげてほしいんだ」
「えっ」
すぐに返事ができなかった。
最初に脳裏をよぎったのは母の思い出だった。屈託のない笑顔。華奢で綺麗な指先。手作りのおにぎり。
次に思い浮かんだのは、明日の夜の飲み会や、週末のサークル合宿のこと。
母さんは心配だし、できるなら会って元気付けたい。それは本音だ。
だけど。
「ごめん。ゼミと授業が忙しくて、ちょっと」
「……そうか。わかった。また連絡するから、身体に気を付けてな」
達樹を気遣う言葉を最後に、父からの電話は切れた。
今更になって、猛烈な罪悪感と後悔が襲う。
ベッドからのそのそと抜け出して、せめて三限には向かおうと準備を始めた達樹の脳内には、父の言葉がべっとりこびりついていた。
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