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通夜、葬儀は粛々と執り行われて、あっさりと父は骨になった。
美香の運転で、母と三人家に帰る。
達樹は母と妹の会話に入っていくことができず、なんだか自分一人、家族でなくなってしまったような気がした。
達樹にとっては六年ぶりとなる実家に着いた。
白黒の生家を見ても、特に懐かしさは感じなかった。
美香は用事があるとかで、一旦外出するようだった。
「遺品の整理するから、あんたも手伝ってよ」
達樹は母の言葉に従い、父の書斎に向かった。
捨てる物、まだ使える物、思い出として残す物。
テキパキと仕分けていく母を尻目に、達樹は父の机の上の家族写真を、ぼうっと眺めていた。
笑顔の自分と母と美香、それから、仏頂面の父が写っている。
あぁ、気持ちの整理がつかない。
母は強いな、と思う。
しばらく遺品整理を手伝った後、休憩がてら外の空気を吸いに、書斎を出た。
その時、尻ポケットが震えた。会社からの着信だった。
なかなか応答する決心がつかずに固まっていたら、八回ほどの呼び出しののち、ケータイの震えは収まった。
おそるおそる履歴を確認すると、この二日の間に課長から、合計二〇回もの着信があった。
通夜と葬式で電源を切っていたため、全く気が付かなかった。
いや。本当は気付いていながら、放置していたのかもしれない。
つい一週間前、達樹のミスで真っ青になっていた課長の顔を思い出す。
課長に怒鳴られて、同期に嘲笑されて、先輩に呆れられた。
あの日から達樹の世界は、色が無くなったままだ。
一瞬の逡巡ののち、そのままケータイの電源を落とした。
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