君を乗せて

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その時、ホームに電車が入ってくるというアナウンスが響いた。 「ま、最後にお前がむくれてない顔を見れてよかったよ」 お前はキャリーケースをころころと引きずって歩き出す。 最後に、かける言葉はどうしようか。 考えるうちにお前はどんどん遠ざかっていく。 「俺は、むくれてないぞ!」 結局最後の一歩寸前で駆けた声はそんな言葉だった。 「何言ってんだ、ずっとふくれっ面してたくせに」 お前も俺に叫び返す。 ドアが閉じる一瞬前に見えた顔は、俺より先に社会の荒波に漕ぎ出していく、俺の一歩前を行く大人の「君」だった。 電車が走り出す。 「君」を乗せて、見知らぬ場所へ。 俺はその背をずっと、小さな点になるまで見送った。 「っ……!」 今さら目が熱くなって、それとは対照的に冷たい雫が僕をなだめるように頬を撫でて落ちた。 俺は力任せに袖でぐいぐいと頬をぬぐった。
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