0人が本棚に入れています
本棚に追加
今は昔
「あの姉弟なら、山に放り出しても野生動物でも何でも食べて、満腹で下山してきそうだよな」
半ば本気で言っていた野生児っぷりが証明されたのは、夏休みの終盤であった。
「泉ちゃん、ちょぉ電話貸してほしんやけど」
転がるようにして縁側まで出て、雨戸をあけると、髪も服もグシャグシャで血と泥に汚れて、従姉弟が立っていた。何鳥の羽根が付着している羽根は、どういう状況でそうなったのか追及したくない。それでも飽食の日本の子供とは思えない行動を繰り出す人間など、他にいるはずもなかった。
「……え、幽霊?」
小鳥のように首を傾げる。これは姉弟共通の癖であった。そして、お互いズボンの裾を掴んであげるとほっそりとした足首が見えた。二人はにっこりとした。足があるから幽霊じゃないよと言いたいのだろう。足も色々なもので黒く汚れて、手は血の汚れがベッタリと残っている。従姉弟らはごそごそと上着のポケットを探って、手拭いに包まれた小さな何かを取り出した。そして「「はい、お土産」」と微笑んだ。
以前、泉が「遠いとこ行ったんならお土産くらい買って来てよ」と言った事を覚えているのだろうか。遭難の憂き目に遭いながらも覚えていて、持って帰ってきたものらしい。
最初のコメントを投稿しよう!