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無題
悪魔が、走り出すっていう木、知ってる?
図書館司書である僕に、いきなり目の前の女子は、切り出した。
答えを言わない僕。知らない顔。
カウンターの積み上がった目の前の百科事典を女子は、パラパラと悪戯にめくっている。
毎日が、単調で、平凡すぎて、変わらないから事典に載れるかと思うぐらい。
そんな僕。
窓からの強い太陽光が、百科事典から飛び散ったホコリを映し出す。
きらりと光った散りの先に、女子の人差し指。
これ。
そこには、幹を斬りだした木の写真。
気は乗らないが、僕は、その写真を見た。
唯の年季の入った大きな切り株。鈍茶色の枯れ葉が、切り株を中心に広がってる。
ぐるぐると円を巻いている年輪。
気持ち悪いでしよ?
これのこと、その・・・、悪魔が、走り出すって?
年輪の上を走っている気がしない?
徒競走してる。ゴールがない。永遠に。また、スタートラインに戻るの。
我先に争って、ゴールにつきたい悪魔達。
僕の頭が渦を巻いた。
悪魔だから、反則あり。
話に反応してる僕。知らない自分。
女子は、笑う。見知った顔。
なんか悪魔のかけっこに乗ってみたくなった。
ゴールは、君?僕は、人だから、君にたどり着くよね。
勇気を持って、二人で、こっそりメール交換。
スマホの着信音。
女子は、手をふって、僕の前から消え去った。
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