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「俺も夏祭り行きたかったなあ」
バスケットゴールに跳ね返されたボールを手に、後輩の三橋(みつはし)はぼやいた。
「盆踊りの音が恋しいっすねえ」
「お前なあ……付き合ってもらっている身でそんなこと言うなよ。僕だって行きたいんだからな」
「さーせん」
ボールを胸の辺りに構えてぽんと投げると、ボールは弧を描き、ゴールの縁に跳ね返された。
「あーあ、またダメだった」
「だから言っているだろう、もうちょっと姿勢を低くして、膝のバネでボールを押し出すんだ」
「やったつもりなんですけどねえ」
「できてない。できないと、永遠に夏祭りに行けないよ」
「え、入れたら行っていいんすか!」
さっきの話に釣られてしまった。しかし、目標を定めてやる気を出してくれるなら先輩として嬉しいかぎりだ。
「うん、行っていい」
「よっしゃ。頑張りますよ、俺。どうしても見たい一輪車の見せ物があるんすよ」
三橋は再度、胸の辺りでボールを構えた。膝を曲げ、姿勢を低くし、ゴールを見据えた。
「絶対決めてやる! ――えいっ!」
ボールは手を離れた瞬間、ふわりと宙を舞い、ゴールに向かって進んだ。優しく吹く夜風はその進路の邪魔をせず、ボールをゴールの網へと運んだ。
「入りましたよ、先輩!」
「やったね! 完璧だったよ!」
「じゃあ、行っていいんすよね!」
そんな約束だった。
僕が「うん」と答えると、三橋は僕の手を握った。
「俺、先輩のこと好きです。一緒に夏祭り行きません?」
完
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