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郊外に建っていた私の家は、ひどく古く、そして広く大きかった。
瓦と黒っぽい板に囲まれた母屋の裏には、日当たりの悪い裏庭があった。
裏庭の木立の間には、よどんだ水のたまった池があり、私はそこでよく一人で遊んでいた。
おじいちゃんはその池のことを「いけす」と呼んで、私にはあまり近づかないように言っていたけど、魚などを放しているわけでもなく、ただ落ち葉や泥がたまっているだけの、暗い池だった。
遊ぶといっても、小舟を浮かべたり水遊びをしたくなる池でもなかったので、ただ藻をすくったり、底の泥をシャベルで掘り返して、独特のくさい匂いを嗅ぐのが私の習慣だった。
いつも一人でそうしていた。
私に友達はいなかったし、家族とも特に仲良くはなかった。
お母さんには、よく、「お前ができちゃったせいで、あたしはこんなカビくさい家に嫁いだのよ」と叱られた。
お母さんからは、子供が効果的に行方不明になる方法や、周囲を怪しませない子供の自殺方法について、よく相談をもちかけられた。
私は失踪も自殺もするつもりがなかったので、適当にはぐらかしていたけれど、お母さんの目は、年々真剣みを帯びてきているようだった。
■
その池の奇妙な現象に気づいたのは、小学六年生の、うだるように暑い夏のことだった。
お昼過ぎに向かった池のそばで、野ネズミがあおむけになって死んでいた。
そこに転がしておくのは何となく気分が悪く、かといって埋葬してあげるほどの手間をかける気にもならず、私はその死骸を池の中に蹴りこんだ。
不思議なことに、池に沈んだネズミの体は、水に溶け込んだかのように姿が見えなくなった。
一時間ほどしただろうか。
なんと、確かに死んでいたはずのネズミが、池の中から飛び出してあらぬほうへ、土を蹴りあげながら走っていった。
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