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さらに体をくねらせるモグラを私は持っていられず、地面に落としてしまった。
モグラがそんなに怪力だとは聞いたことがない。
私は逆側に曲がった三本の指をかばいながら、それでも、裏庭に落ちていた、万年筆くらいの太さの木の枝をモグラに差し出してみた。
モグラが前足でぱんとはたくと、枝はまるでシャープペンの芯のように折れて飛んだ。
それに、よく見ると、モグラはさっきまでとはまるで別の生き物のような形相に変わっていた。ものすごく怒っているような、目がつり上がって、口元は牙をむき出しにした、凶暴な肉食獣みたいな顔。
なんだこれは。
池の作用なのか?
私は、地面にいたカナヘビを捕まえると、折れていない左手の指先で頭をつぶして池に沈めた。
三十分ほどすると、カナヘビは頭が元に戻って、池から這い出てきた。
その進路に、私のこぶしくらいある石を置いてみると、カナヘビは真綿でもどかすようにその石を軽く転がしてしまう。
やっぱり、この池で復活した生き物は、恐ろしく怪力になるんだ。セミやネズミでは分からなかった。
私はカナヘビを放っておくわけにもいかず、しかたなしに頭を踏み潰してみた。
すると、カナヘビはそれで死んでしまった。
池から生き返ってきても、頭をつぶせば死ぬらしい。これは大事な情報だ。
ふと気づくと、モグラがいなくなっていた。
すっと背筋が冷えた。
あんなものを放しておいては大変なことになると思い、私はあたりを探した。
一番心配なのは、庭で飼っている犬だった。
慌てて犬小屋を見に行くと、暗くて見えづらかったけど、犬はいつもと変わらずに頭だけを犬小屋から出して、そこに寝そべっていた。
無事でよかった、と思いながら、私は犬のお腹に手を差し入れて、胸元へ抱き上げた。
異変に気づいたのはその時だった。
犬のお腹が、暗がりの中でも分かるくらい、べっとりと血で汚れている。
肉がひしゃげ、骨が飛び出し、大型の車にでもはねられたように大怪我をしていた。
私は悲鳴をあげながら、心の中で、あのモグラに違いないと確信していた。
犬の体はまだ温かい。さっきの今で、犬小屋にいた犬をこんな殺し方ができるのは、あの池で異常な力を身につけた生物だけだ。
死んだ犬を池に入れてやろうかと思って、やめた。
もうそんなことをする気にはならなかった。
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