変化のある朝(魔術師の正位置)

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変化のある朝(魔術師の正位置)

「おはよう主、今日も食パンかい?」  私が朝食として食パンを焼いていると、のんきな声が聞こえてきた。彼は『魔術師』の正位置、カード番号は1で、何かを生み出すことを得意とするカードである。主な意味は『創造・新たな生活・交流を深める』など。 「おはようマジシャン、分かり切ったこと毎日聞かないでよ」 「はは、そうだね。主が朝からごはんとみそ汁って、見たことないや」 「あれ、ジャムがない……まぁいいか。今日はお砂糖にしよ」  マジシャンはだいたい朝食時に顔を出す。理由は特にはないらしい。黙々と朝食を摂る私を、何も言わずに見つめてくるだけである。 「毎日そうやって見てるけど、飽きないの?」 「ん?  飽きないよ♪」 「同じことなのに?」  ふと、マジシャンの表情が変わった。先程まで微笑んでいたというのに、今は困ったような顔をしている。最近になってわかったことなのだが、マジシャンは『同じ』という単語が苦手らしい。 「主、同じ事なんてないんだよ? 主は人間なんだから……」 「どういう意味?」 「朝は必ず来る。これは確かに同じだよね。でも主はどうかな? 昨日の朝と、全く同じだって言える?」 「それはそうだけど……朝食を食べることには変わりないでしょ?」 「行動はね。でも心の状態とか、考えてることは?  全く同じこと、全く同じ気持ち?」  マジシャンはそれだけを言うと、ふっと笑った。どんなことでも、変化はある。そう言いたげな目をしていた。マジシャンから目をそらし、私は食べかけの食パンを見つめてみた。 ……変化は、分からなかった。
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