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「あら、素敵じゃない」
「そうなのよ、もっと早くにお願いしたらお母さんにも見せられたのにって言ってたのよ」
「そうねぇ……」
聞き覚えのある声にわたしの意識は浮上した。
しんみりとした雰囲気で相槌を打ったのは二番目の娘。そして、わたしを手にしているのは長女だ。
「他の着物もリメイク小物として作って貰ったのよ、着物で貰っても着ないものね、捨てるのも勿体ないし……この鴬色の着物、母さんお気に入りだったわよね」
「そうね」
鴬色の生地に梅の花。元の持ち主、娘達の母親が生前好んで着ていたもの。
わたしは誇らしい気持ちで二人を見上げた。
「早奈英が提案してくれたのよ、おばあちゃん喜ぶわね」
「あらそうなの?きっと喜ぶわ」
「こうやって小物にしてもらえるとおばあちゃんと一緒にいられるみたいって……高校生が使うには大人びてるけど、これならずっと取っておけるものね」
「他の着物も小物に?」
「えぇ、出来そうな物はお願いしたわ、四十九日の時に形見分け出来ると思うから」
「そう、楽しみなんて言っていいのか分からないけど……」
「ふふ、そうよね、でも楽しみでいいんじゃない?お母さん湿っぽいのすきじゃないでしょ」
「それもそうね」
わたしは娘達の笑顔を見ながら、生まれ変われて良かったと感じていた。
わたしを長く着てくれたあの人が病院に入院して以来、ずっと暗い箪笥に閉じ込められていた。そこから出してくれたのは長女の娘の早奈英。
そして、早奈英があの人はもういないのだと教えてくれた。
わたしは涙を流す事が出来ないけれど、悲しい、寂しい気持ちになった。そして、どこかしらない所へ預けられ、わたしもこの世からなくなるのだと思った。
でも違った。
私は再びこの家に帰って来た。
姿は変わってしまったけれど、また誰かに愛情を注いで貰える存在になれるように戻って来られたのだ。
早奈英という娘のおかげだ。
「佳菜子おばさんこんにちは」
障子が開けられ、顔を出したのは早奈英だった。
「早奈英ちゃん、こんにちは、これとても素敵ね、早奈英ちゃんが考えてくれたんだってね」
「うん、この着物、病院でも着れたらいいなって言ってたの……もっと早く思い付いていればおばあちゃんにも見せられたのに……」
「おばあちゃん、きっと天国で喜んでるわよ」
「そうだといいな」
春を呼ぶ鳥のように、早奈英は愛らしく笑った。
あの人もきっと笑っているのだろうと思う、人間の言う天国というところで。
人間は復活出来ないけれど、想いは続いていく。わたしのように姿を変え、想ってくれる誰かの手に、ずっと続いていく。
想いを思い出に、ずっと。
完
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