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1話
今月でこの会社に転職して丁度1年か……
自分のデスクにあるカレンダーでその事に気付いて、もう見慣れたフロアをぐるりと見渡した。
パソコンと睨めっこしている人、電話対応している人、会議用の書類をコピーしている人、どこかへ移動しようとしている人――色々な社員がいる中で、書類を真剣な表情で確認している課長の姿に自然と目が留まる。
「そうだな……全体的にはよく出来ていると思う。ただ、細かい部分が少し大雑把過ぎるな。例えばここだけど――」
今年入社した社員に1つ1つ丁寧に説明する姿を見て、自分が転職してきたばかりの頃を思い出した。
毎日緊張しながら仕事をしていた私に「焦らずゆっくり覚えてくれたらいいから。何か分からない事や困った事があればいつでも相談して欲しい」と笑顔で言ってくれて、随分肩の力が抜けたのを覚えてる。
だからこそ、その言葉に甘えるわけにはいかない、少しでも早く力になりたいと毎日終業後に残って仕事を覚えていたら、課長は何も言わず付き合ってくれて、分からない所を1つ1つ丁寧に教えてくれた。
ミスをしてしまった時も、責めずに励ましてくれたんだよね……
仕事が出来て部下思いで、皆に慕われている――そんな古森課長に、尊敬以外の気持ちを抱く様になったのは何時頃だったんだろう。
「――じゃあ、その辺りを修正してもう一度提出して」
「分かりました」
物思いに耽っていたせいで、2人の会話が終わった事に気付かず課長とバッチリ視線が交わった。
「?」
課長に「どうかしたか?」と聞かれている気がして、慌てて首を振って視線をパソコンのモニターへと移す。
変に思われてないといいけど……
少し心配になって視線を課長へチラッと移すと、既に仕事に集中している様子にホッとしたような残念なような……何故か少しだけ複雑な気持ちになった。
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