5話

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途中で見つけたケーキ屋さんで残り僅かになっていたケーキとスーパーでチキンとお酒を買った私達は、課長の住むマンションへと向かうことにした。課長は私の手を離さないまま、空いた方の手に荷物を全部持って歩いている。 「どれか持ちますよ?」 「大丈夫。そんな事気にしなくていい。……それよりコンビニに寄ろう」 「まだ何か買うんですか?」 「その……家には、女性用の物が何もないんだ。化粧落としとかそういうのあった方がいいだろ?それに、服は俺の物でもなんとかなるかもしれないけど、下着は……」 課長の言葉でやっと気付く。週末ずっと一緒に居るって事は当然泊まるってことだ。準備なんて勿論してないから何も持って無いわけで……かろうじて化粧ポーチがある程度。 課長にそんな事を気遣わせてしまったことが恥ずかしくて、顔が一気に熱くなった。 「すみませんっ……私が気付くべきなのに……」 「いや……俺の方こそ悪い。余裕が無いせいで、女性には準備が必要だっていう事に今まで気付けなかった」 「余裕が無いようには見えないですけど……」 「そんなことない。余裕があれば、今日は食事だけして明日また出直す事を考るさ。だけど今の俺は、君を1度家に帰す余裕すらない。年甲斐も無くてみっともないけどな」 少し自嘲気味に言うから、私は何度も首を横に振った。 「そんな事ないです。だって……私は嬉しいから」 「そっか……もうすぐコンビニがあるから、そこで色々必要な物買って行こう。コンビニからは家まですぐだから」 「はい」 数分で見えてきたコンビニに入って目的の物を探し始めると、そこで初めて課長の手が離れた。 「ゆっくり選んでて。俺もちょっと買う物あるから見てくる」 「分かりました」 急に自由になった手に少し寂しくなりながら、必要な物を色々選んでいく。そして下着を手に取った時、課長が離れていった理由にやっと思い当たった。 そっか、下着も買うんだから一緒に居辛いよね……私も気まずいし、課長も気まずいだろうし。 そんな事にもすぐ気付かないんだから、課長以上に他の事を考える余裕が無いってことなんだろうな……
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