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4話
クリスマスも明日に迫った金曜日。
イブだからか、朝から皆気合いが入っている気がする。年末に向けてますます忙しくなっているのに、今日は絶対残業はしないと皆の集中力が桁違いに見えて、凄いなと素直に感心する。
「最終確認お願いします」
「分かった」
出来上がった書類を持って課長のデスクに行く。いつもと同じように見えるけど、その目が以前のように私に向く事は無い。
あの日から課長との関係がギクシャクしていて、いつもなら目を見て話してくれるのに殆ど目が合うことはなくなった。自業自得……そう分かっていても、いざそうなると胸が痛くて苦しい。
手際よく確認していく課長を見つめていると、ある違和感に気付いた。左腕の手首――そこにあるはずの腕時計が無い。正確には、腕時計は付いているのに、今までと全く違う新しい時計がそこに見えている。
どういうこと……?
信じられない気持ちで、思わず課長に声をかけた。
「課長、腕時計変えたんですか……?」
「え?あ、ああ。うん、そうなんだ。前のやつは針が止まっちゃったから、新しいのに変えたんだ」
変えた?でもあの時計は……
「亡くなった婚約者とお揃いだったんじゃ……」
「えっ?」
驚いた目で見上げられて、自分が言ってしまった事にハッとする。動揺して慌てて席に戻ろうとするとすぐに呼び止められた。
「三井さん、確認がまだ終わってない」
「あ……すみません」
……今のは完全に失言だった。しかもこんなに動揺するなんて、課長から聞いた話じゃないと自ら自白したようなもんじゃない。
「――1か所だけ誤字があるから、そこだけ訂正してくれたら後は大丈夫だ」
「分かりました。失礼します」
早々に課長から離れる。
気を逸らしたいのもあって、席に戻る間に修正箇所を確認しようと書類を捲ると、2枚目に貼られた付箋にメッセージが書いてあった。
”昼休み、第一会議室に来て”
いつの間にこんなの書いたんだろう。全然気付かなかった。
書類を確認しても誤字なんて何処にも無くて、これを伝える為に吐かれた嘘だとすぐに分かった。
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