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(一)
「誰からだ」
天井からぶら下がった「刑事課」の看板のすぐ下にいる山城純雄が受話器を持った年下の同僚に尋ねた。
「北浅草警察署の青谷刑事からです」
架かってきた電話を取った年下の同僚が返答した。
そう聞くと、山城はデスクの上の電話機の受話器を取り顔の横に当ててから保留ボタンを押した。
何度か頷くと「すぐに伺います」と言って山城は受話器を置いた。
「城陽!」
山城はデスクの引き出しを開けてビニール袋を取り出し背広の内ポケットに入れながら、立ち上がって大声で後輩を呼んだ。オフィスでは誰も反応しなかった。隣のデスクには誰もいなかった。
すると廊下の方から「呼びましたか」と両手にコーヒーカップを持った城陽典孝がやってきた。
後輩の姿を見つけると「北浅草署に行くぞ」と大声で言い、山城は廊下へ出た。城陽とすれ違うが、そのまま階段の方へ歩いて行った。
「何があったんですか」
すれ違いざまに城陽が振り返って尋ねてきた。
「鶯谷駅の件だ」
山城は階段を降りていった。
(続く)
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