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21 がんばったから、今がある
「っ、はあ……っ」
大きく息を吐き出す。中に侵入してきた塊は、一瞬で詩織を絶頂においやった。目の前がチカチカと光り、視界が定まらない。ふわふわとした夢見心地にいると、仁の低い声が耳をくすぐった。
「大丈夫?」
「……っ」
乱れた髪を撫でられる。汗と涙で濡れた髪の毛が肌に張り付いていた。濡れた髪を仁が優しく取り払ってくれた。それと一緒に顔のあちこちにキスを落とされ、擽ったさに頬が緩む。問いかけに対して、スマートに大丈夫、と口にしたいが頷くのが精一杯だった。
繋がっているところがじくじくと疼く。気持ちよくて、苦しい。けれども、幸せな気持ちで胸がいっぱいだった。腕を伸ばして、仁をぎゅっと抱きしめた。肌と肌が重なり、熱を分け合う。そして、鼓動も重なった。
とくとくとく。
相手の生きる証を全身で感じると、不思議と心が凪いだ。疼きは未だ残るものの、心は満たされつつあった。このまま、繋がったままいられたらどれだけ幸せだろう。そう思ってしまっていた。
「こら」
「ふぁ、い」
「何だか満足したみたいだけど、まだだからね?」
隙間なく重なっていた腰がゆるりと動き出す。蜜をまとった湿った音が響く。小さく喘ぐと、仁がニヤリと笑った。
くち、くち、と湿った音を聞かせるように仁が腰をうちつけてくる。決して激しい動きではなく、むしろ労りすら感じる動きだ。
それでも今の詩織にとっては快楽の渦に引き戻されるには十分だった。
「かわいい」
だらしなく口を開けて喘ぐ女のどこが可愛いのか。そう言いたくても、漏れる声が阻む。ゆるく与えられる快楽は、どこか物足りない。焦らすような動きに、詩織はまた翻弄された。
「あっ、あぁ……っ、やだぁ……」
「うそつき」
残酷な言葉と共に、キスが降ってくる。酷く優しいキスは、詩織の劣情をさらにあおった。ゆるい動きの中に、時折まじる、奥への刺激。それは、いとも簡単に詩織を絶頂においやった。
「っ、ダメ……また、いっちゃ……」
これ以上の絶頂は、未知の世界だ。包み込まれるような優しいセックスの裏に隠された、仁の獣欲は底知れぬものだった。
「うん、いっていいよ」
こんな風に優しく言われてしまえば、身を任せるしかない。思えば、詩織は仁のことを知らなすぎる。喫茶店のマスターで、料理が上手。優しい。かっこいい。自分の彼氏になった人。そして、意地悪なセックスをする。新しい仁を知っていく度に、欲張りになる。仁も同じだと言ってくれていたが、物足りない、もっと知りたい、愛して欲しい、そんなふうに思っているのだろうか。
――本当に、同じなの?
「っ、ん、ぁああっ」
そんな疑問が追いやられるほど、奥を刺激された。水が弾けるような音がして、太ももを濡らしていく。声を荒らげ、快楽に身を任せる以外できない。仁の動き一つで、驚くほどすんなり絶頂に導かれた。達するのは何度目か分からない。決して手酷く体を暴かれるわけではない。むしろ、これ以上ないくらい優しく抱かれている。それなのに、欲望は更に増していく。
足りない。けれども、気持ちよくて気持ちよくてたまらないのだ。
体に力が入らず、されるがままだったが、決して不快感は感じない。
「詩織ちゃん?」
詩織を刺激しながら、優しい声で名前を呼ぶ。詩織は自然と流れる涙をそのままに、思いを口にした。
「っ、すごい、の」
はあ、と大きく息を吐いて、次の言葉を絞り出す。それが、どんな効果をもたらすかも知らずに。
「こんなの、初めて……」
二人で気持ちよくなりたいとねだったが、結局は詩織一人が快楽をむさぼっている。けれども、どうしようもなく気持ちいいのだ。それは変えられない事実だった。
「……はじめて?」
「うん……」
そう。と仁が話を切った。中を埋めつくしていた熱い塊の動きが一瞬だけ止まった。
「ひとし、さん?」
名前を呼んだ瞬間、右足を勢いよく持ち上げられた。
「ぼくも、初めてだよ」
「っ、ぅあ!」
同時に、ゆるく奥を刺激し続けていた陰茎がこれでもかと奥に差し込まれた。圧迫感と痺れるような刺激に、呻くような声が溢れ出た。
「こんなに気持ちいいのは初めてだ」
見下ろされ、仁がゆるりと口角を上げる。瞳の奥に、消えることの無い情欲がみえた。その激しさに、詩織はこくん、と生唾を飲み込んだ。
「これからが、本番だよ」
がつん、と腰を打ち付けられた。優しさの欠片も無い、激しい動きだった。片足を持ち上げられているせいで、奥の奥までぴったりと埋め込まれた。
――本番? どういうこと?
「っ、はっ、」
上手く息が出来ない。落ち着かせようとするが、与えられる刺激のせいで、上手くいかなかった。何度も高みに連れていかれて、また、快楽の渦に閉じ込められる。数度それを繰り返したが、仁の責めは止まらなかった。
「っ、はぁ……きもちいい」
「あっ、あっ……ん、あぁ、」
何も言葉に出来ない。せめてもと、腕に力を込めると、責めが益々ひどくなった。
「いっしょに、ね?」
確認するようにそう囁かれる。詩織は揺さぶられる中、小さく頷く。それを合図に、仁が舌を絡めてきた。がつん、と歯がぶつかり、ジンとした痛みが走った。
そこに、仁の余裕のなさを感じた。
彼も、自分と同じだと知る。仁の余裕のなさは、詩織の中に仄暗い喜びを灯す。もっと、自分に溺れて欲しい。そんな浅ましさすら覚えてしまう。
「いっしょに……」
「もちろん」
愛しているよ。
耳元でそう囁かれる。低い声と、吐息と、愛の言葉は、詩織の鼓膜を通して脳髄まで染み込んでいく。
言葉一つで、詩織はあっという間に幸せの絶頂を迎える。とろとろに溶けきった体は仁の愛を全て受けいれていく。
同時に、腰をたたきつけられ、詩織は高い嬌声をあげる。嬌声に愛の言葉を乗せて、詩織は快楽の絶頂を迎えた。
そして、薄い隔たり越しに仁の情熱を受け止めた。
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