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準優勝
「はい、じゃあ写真撮りますよ!ホームページに載せるやつだからもっと笑顔でお願いしますよ!はい、いきますよー!」
カメラマンに促されるまま俺は銀の盾を胸の前で持ち、無理矢理笑顔を作って見せようとする。しかし笑顔を意識すればするほど、悔しさの滲んだ強ばった顔になってしまう。それもそうだ、隣にいるチャンピオンは最後に試合に勝ってこの表彰台に立っているが、俺は負けた直後に写真を撮られているのだ。準優勝という結果だけ見れば立派かもしれないが、終わりよければすべて良しの反対で最後が悪ければ決して気持ち良くは帰れないのだ。
その点ではチャンピオンを挟んで反対にいる男は、入賞そのものがかかった試合で最後勝利してこの場にいるからか、俺より下のくせに俺よりも清々しい顔をしている。俺だったら決勝の場に立てなかった時点で悔しさしか残らないが、「終わりよければ全て良し」を体現した彼の気持ちはわからないものでもない。
「はい、それじゃあ皆さんありがとうございました!」
写真撮影が終わると、高橋芳樹(よしき)は俺に駆け寄ってきた。
「お前せっかくの写真なんだからもっと笑えよ〜。カメラマンの人も困ってたぞw」
「負けた直後に満面の笑みを振り撒けるほど俺はサイコパスじゃない」
「お前いっつも準優勝だもんなwこれで何回目だよw」
芳樹とは高校の硬式テニス部からずっと一緒で、かれこれ7年の仲だ。ずっとと言っても俺と芳樹は大学は違うし、なんなら俺が体育会のテニス部に入ってるのに対して、こいつはチャラチャラウェイウェイのテニサーにいる。今日俺は一応決勝まで行ったものの、こいつに関しては予選で敗退している通り、芳樹は勝ち負けにこだわるというよりエンジョイテニスをしているように見える。まあテニサーでもこうして外部の大会に出ているだけでも、周りからしたらガチでテニスをやっている部類に入るのだろうが、、、。
「でもいいじゃねえか!一応準優勝なんだからさ!俺なんて何も持って帰れる物ないんだぜ!?彼女にも全くいい報告できねえよw」
「報告する相手がいるだけいいだろ」
「へへへ、お前も早く彼女作れよw社会人になったら出会いが減るらしいぜw」
「その前に仕事見つけろよ、社会人になるなら」
「うへー、お前いまだに内定ゼロの俺にキツいこと言うな〜wまあなんとかなるっしょ〜w」
そう、俺たちは来年の3月に大学を卒業する。俺はもう内定が決まっているが、芳樹は10月だと言うのに未だに内定がない。俺がこいつの立場だったら彼女どころではないが、そんな状況下でも陽気なこの能天気さがある意味こいつの長所かもしれない。
「そういえばお前さ、社会人になってもテニス続けるの?」
「、、、分からない」
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