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「Game! Won by ~ , Set Count 2-1!」
審判がそう試合終了をコールをすると、俺はネット越しに相手と握手をした。そして対戦相手は本戦出場の案内を受けるために、係員とともに大会本部へと消えていった。
結局、今回もだめだった。4回戦までは順調に勝ち進み臨んだ決勝戦、互いに1セットずつ取る五分五分の戦いであった。そして3セット目、6-6タイブレークの末に俺は敗れた。決して相手と圧倒的な力の差があったわけではなかったし、油断していたわけでもない。ただ、そこも含めていつも通り1番になれない俺のポテンシャルは、所詮こんなものである。
応援に来てくれたチームメート達に挨拶を済ませたあと、俺は芳樹と帰路についた。
「お疲れ!またまた準優勝か、ほんとお前2位ばっかだなw」
「これは予選だから準優勝なんて大層なもんじゃねえよ、ただの予選敗退だ」
「まあそう言うなってwお前のこと見に来てたチームメートからしたら、お前は一番予選優勝に近かった人間ってことだぞ、すげえじゃんw」
理論上は確かにそうだ。予選決勝で敗れた人間は一番本戦に近かったと言える。だが結局は優勝できなければ本戦に出れない時点で、一緒なのだ。富士山の次に高い山があまり知られていないとは、このことだ。
「俺さ、実は、、、」
卒業したらテニスをやめる、そう言おうとした時だった。
「だから俺、お前のこと尊敬してるぜ」
唐突に予想外の言葉が飛んできた。尊敬?俺を?
「お前はいつも2位ばっかで悔しいかもしれないけどさ、逆に言えばいつも2位をキープできるだけの努力をしてきたってことじゃん。それ他の人にはなかなかできないよ。」
「でも俺は敗者だぞ」
「決勝ではな。でも決勝に着くまではお前はいつも勝者だ。そして世の中には決勝にすら一生辿り着くことなく終わる人もいる。つまりトータルで見たらお前は勝者だし、通算では優勝といってもいいくらい勝ってるんだよ。そしてそれはお前の努力の賜物だ。」
芳樹にしては珍しく真剣な口調なので俺は戸惑ったが、悪い気はしなかった。
「急に気持ち悪いなお前」
「ひでえw人がせっかく慰めてるのにw」
「やっぱり慰めかよ!尊敬してるんじゃねえのかよ」
「だってお前が毎度恒例の仏頂面してっからw」
はあ、慰めで絞り出された素晴らしい話ほど滑稽なものはない。俺は改めて芳樹にテニスをやめることを伝えようとすると、
「でもよ、お前がすごいってのは本当だぜ!だってあと少しで優勝じゃん!世界の誰よりもお前が一番優勝に近い!俺からしたら羨ましいぜw」
羨ましい?この俺が?
「少なくとも決勝に辿り着けなかったやつはみんな思ってるぜw優勝したらそこで満足して終わっちゃう人もいるけど、お前はずっと2位だから満足することなく次の目標に向かって常に頑張れるんだからな!」
、、、満足、か。
確かに優勝したら満足するのだろうか。世の中のチャンピオンの大半はそんなことないとは思うが、確かに満足して優勝のありがたみが薄れる可能性はある。そして俺が常に満足していない故に、常に次の大会に向けて頑張れているのも本当だ。逆にいつも1回戦2回戦で敗退しているような奴らは、そこまで必死な気持ちにもなれないのかもしれない。その意味では確かに羨ましいか、、、。
「芳樹」
「ん?」
「実業団ってどうやって入るんだ?」
俺は、もう少しだけ「不満足」を続けてみることにした。
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