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サブリーダー
「それでは学生時代頑張ったことを教えてください」
「はい、私はサークルの副部長として、、、」
毎年日本の就活で見られるこのテンプレのようなやり取りは、なぜ減らないのだろうか?
それには2つの理由がある。
1つは副リーダーというポジションは、バレにくい嘘というか装いやすい役割であるということだ。基本的にキャプテンシーが求められる部長と異なり、副部長というポジションは必ずしもリーダーシップを必要とされない。部長と二人三脚で部活やサークルを運営していくリーダー型副部長もいれば、強権的部長をそばで支える秘書的な役割の副部長、部長とその他の一般部員との間を取り持つ潤滑油的役割の副部長もいる。余談だが潤滑油も就活でよく登場するワードだが、実際にこの役割を全うできている就活生は全体の1割も居ないだろう。
つまり副部長には色々なタイプがおり、部長と違って必ずしもいわゆる陽キャラやリーダータイプでなくても良いのだ。故に部長を装って「こいつ絶対部長っぽくないな」と見破られるよりも、副部長を装って「まあこういう副部長もいるんだな」くらいに思われた方がリスクは少ない上に一応役職持ちをアピールできる。だから学生時代頑張ったことを何も話せない就活生は、とりあえず「副部長」になる。副部長でなくても良い、バイトの副リーダー、副ゼミ長、何かの副代表、挙げればキリがない。
さて、多くの就活生が面接で副部長の話をするもう一つの理由は、彼ら自身が本当に副部長をやってきたからである。実際のところ部長というポジションが常に1人しかいないのに対して、副部長は2人以上いることも珍しくない。副部長は組織のトップではない故に複数いても問題はないし、むしろ複数いた方が部長の不在時に副部長の不在という事態を防げる。また部活やサークルに限らず会社においても、大抵の場合副社長や副代表という肩書きの人間は複数人いる。
このように世の中には副部長という肩書きの人間は、実際に部長よりも多い。故に本物の副部長だけでも相当数いるのだ。
「わかりました。ありがとうございます。それにしても本当に副部長を名乗る学生が多くてねえ、、、。君は本当に副部長だったの?選ばれた経緯とか教えてくれる?」
、、、まあ人事が疑うのも仕方ない。毎年これだけ大量の偽副部長が現れるのだから。しかしそのせいで俺のような本物の副部長が疑われるのは、やはり気持ちの良いものではない。
俺は昔から「副」と名の付くポジションが好きで実際にずっとその立場だった。小学校、中学校、高校のサッカー部では一貫して副キャプテンを務め、さらに中学高校では生徒会の副会長も務めた。そして大学のフットサルサークルでも副部長を務めた。バイト先にはいわゆるリーダー制度がなかったので特に副リーダーという肩書きは持っていなかったが、もし制度があれば俺は副リーダーになっていただろう。
なぜここまでサブリーダーポジションに拘るのか、それは「副」が美味しい立場だからだ。副部長は部長ではないので、部長の不在時を除いて大勢の前に立って話すなどしなくて良いため目立たなくて済む。目立たない故に皆の前で話すことの緊張感に押し潰されなくて済むし、悪目立ちや妬み嫉妬によって嫌われるリスクも少ない。
また目立つことはない一方で、一応組織内ナンバー2の立場であり裁量権もそれなりにあるため自発的に組織を動かすことも可能だ。平の立場と違って運営に直接関わっていることから、トップに直接提言することも容易である。
そして何よりも大きいのは、最悪の場合に責任を取らなくて済むことだ。もちろん幹部、運営という括りで責任を取らなければならないことはある。しかしそれでも常に全責任を負わされるトップに比べれば、比較的その責任は軽いものだ。
まとめると、権力は欲しいが、責任は取りたくないし目立ちたくもない人間にとって、サブリーダーは理想のポジションなのである。そう、俺のような人間にとって、最高の肩書きだ。
「では、これで面接を終わります。ありがとうございました。結果は2週間以内にお伝えいたします。」
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