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「きみのことを知りたい」
ぼくがそう彼女に打ち明けたのは、太陽の光がオレンジ色に染まりそろそろ夜があたりを支配しようと画策する夕刻の頃だった。
食事の支度をしていた彼女は動きを止め沈黙がリビングに漂うと山から吹き込む風が不規則な音色を鳴らし、余韻が部屋を駆け巡った後で彼女は振り返る。
「なぜですか?」
「アイを学びたいんだ。そのためにきみのことを詳しく知る必要があると思った」
咄嗟に答えたからか彼女は口をもごつかせて俯くと黙り込んでしまった。次に言葉を発するまで10秒ほどであったがぼくにとって千年の静寂と同等の長い時を感じた。
「わかりました。わたしの部屋に一緒に来てくださりますか?」
彼女は階段がある方向へ踵を返した。
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