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まず手始めに彼女を観察することにした。
玄関までの長い廊下を丁寧に磨く彼女のお尻が微かに動く様をリビングから眺めながらぼくはたしかに胸の高鳴りを感じていた。
それから彼女は意味もなくたくさんある部屋の掃除をしていたが、リビングからなにから埃ひとつ落ちていない綺麗な家の中でなにをそんなに神経質になることがあるのだろうか?
しばらく不思議そうに彼女を眺めていたがちっとも代わり映えしない。
「楽しそうだね」
「はい、とても」
「お手伝いすることはある?」
「それでは大変申しあげにくいのですが、そのわたしのお尻のあとをつきまとうのはやめてください。掃除の邪魔になりますので」
彼女の緊張が伝染しぼくの安っぽい笑顔が強張る。
「そんなに気になりますかわたしの体?」
「いや別に」
耳元で囁かれたぼくは拍子抜けして声を震わせてしまった。
「冗談です。わたしは少々汗をかいてしまったのでシャワーを浴びてきます……いっしょに入りますか?」
通り過ぎた彼女の髪といっしょに、かすかに甘い匂いが近くをすぎていく。
なにも言えず導かれるように彼女のあとを追う。
ぼくはこの気持ちの抑え方を知らないことに心底後悔したのだ。
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