亡くなった恋人の代わりにキスをするアンタを仕方なく愛す。

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あたしは、義理の兄に寝ているあいだにキスをされた。 どうやら義理の兄である颯は、恋人の小百合が入水自殺したらしくて傷心中みたいだ。 彼女を亡くして日が経たないうちに両親の再婚も決まってあたしと颯は兄妹になったのだった。 そんな時期にあたしと出会って傷心中の颯は、小百合に似ているらしいあたしに小百合を重ねるようになってしまう。 『小百合…』 あの子の名前を愛おしそうに囁きながら、アンタは、あたしの唇にアンタの唇を落とす。 そんなどうしょうもないくらい可哀想なアンタを、あたしは仕方なく愛してあげる。 だから、小百合の代わりに寝ているあたしにキスをしてもあたしは怒らない。 小百合。 キスをしていると、彼女を思い出せる。 義妹の千里には、申し訳なくなる反面彼女を忘れたくなくて今宵も千里の唇に俺の唇を落とす。 千里の目からひと粒の涙が零れ落ちていた。 『ごめんな』 届くはずのない懺悔を口にし、千里の涙を指で拭った。 『なんで、謝るの』 千里は、目をぱっちりと開けていた。 『千里には、悪いことしてるから』 それは本当にそうなのだ。よりによって妹に手を出すなんて、いやそれ以前に亡き恋人の代わりにするなんて許されることじゃないよな。 『ごめんな』 すると、千里は益々不機嫌になる。 『謝れっていってるんじゃない』 そういわれても、俺には謝ることしかできない。 『はぁ~…、代わりにするのなら、徹底的にして。そのほうが辛くないから』 どこか悲しそうな目をして千里は、いう。 俺は、無言で頷いた。 その日から、両親には内緒で千里、いや小百合にキスをしたり時には身体を重ねたりしたりもした。 そのたびに、小百合はこんな表情をしないよな、とか考えたりした。 『ねえ、今、何を考えてるの』 小百合が、息を切らしながら俺の頬に触れた。 俺は、小百合だと思い込みながら千里の小さな身体を仕方なく抱いた。 薄々気付いているの。馬鹿にしないで、お兄ちゃん。 本当は、あたしじゃ代わりにすらなれないのでしょう。 そりゃ、あたしは胸も身体も小さいし似ているのは顔だけだから仕方ないよ。 どんなに小百合に近付けるために黒いレースキャミソールワンピを着て、赤い口紅を塗ってもかえって子供らしさが強調されるだけで、虚しさが胸を埋め尽くす。 あたしじゃ、どんなに努力をしても小百合には、なれない。 小百合になれないなら、愛してもらえない。 こんなあたし、生きている意味なんかあるの。 好きな人を癒やすことすらできないあたしの存在する理由なんて、あるの。 気付いたら、街を彷徨っていた。 黒いレースのキャミソールワンピに赤い口紅と赤いハイヒールのままで雨の中ずっと歩いていた。 『ねえ、君、濡れてるよ。 お兄さんと雨宿りしよっか』 見知らぬ男に声をかけられた。 男は、あたしの貧相な胸元をいやらしく見ていた。 無視していたら、男はあたしの腕を掴む。 力が強くて振りほどけない。 嫌、颯以外に犯されたくない。 助けて、颯。 しかし、颯は助けに来てくれることはなく、あたしは颯以外の男に犯された。 『千里、誰に犯された』 そう聞いても当たり前だが、千里は口を割らなかった。 なぜだか分からないけど、無性に腹が立つ。 千里を犯した奴も、簡単に犯された千里にも。 気付いたら、千里の唇にキスをしていた。 千里の口の中は甘い香りがした。 千里の唾液が絡みついて千里は息がしづらそうだ。 『もう感じたのか』 千里のぷっくり立った充血した乳首を摘む。 『ち、ちが…』 あくまで否定する千里だが、千里のあそこを触るとねっとりと濡れていた。 千里のあそこを指で弾いていくと、ピチャピチャと下品な音をたてた。 『これでも感じてないっていえるか』 千里は、身体をビクッと震わせている。 気の強そうなツリ目も、とろんとしたタレ目になって頬を赤く染めている。 なんか、けっこうかわいいな、こいつ。 俺は、はじめて千里を可愛いと思った。 それからも千里がなぜか可愛く見えてきだした。 千里とゲームをして負けて悔しそうにしているところとか、ココアを飲むときの口元とか、お風呂上がりの火照った顔とか、勉強するときに前髪をヘアクリップで留めてるところとか。 千里を可愛く見えだしてからは、誘いづらくなっていた。 今まで小百合の代わりにしていた癖に虫が良すぎるだろう。それに、義理とはいえ妹だし。 だが、両親が旅行に出たある日の夜に寝ようと布団に入ろうとしたら千里が裸で布団に入っていた。 『おい、女がそんな格好で寝るな』 なるべく平静を装いながら注意した。 すると、千里は泣き出した。 『どうしたんだよ』 困りながら尋ねる。 『だって、もう代わりにしてくれないんだもん』 ああ、もう、なんていじらしいんだろう。 俺は、思わず千里を抱き締めた。 千里は、驚きながらも腕を俺の背中に回した。 『俺は、もうお前を代わりなんて思ってない』 続けて『“千里”が好きだから。これからは千里を抱きたい』 そう告うと《いうと》、千里は俺の胸で泣きじゃくった。 千里が泣き終わった頃に、俺は千里を抱いた。 千里の柔らかい身体にキスを落とした。 俺は、はじめて千里を抱いた。 千里は、嬉しそうに目を細めていた。
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