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7
あれから10年の月日が流れた。
茶色い髪をした娘にはテッサという名前を付けた。
素直で利発で美人だが、僕と妻のどちらにも似ていない。
僕たちは亡くした娘と同じくらいテッサの事を愛している。
あの日の翌朝、僕は街へ行って子供が行方不明になったり誘拐された事件がなかったか調べた。
誰からも届けはなく、警察署も新聞社も別の事件にかかりきりだった。
「違法移民の一斉摘発があったんだよ」
通りかかった街の人に尋ねると、そう教えてくれた。
クリスマスイブに無人情なことだよ。
そう言うと街の人は肩をすくめ、行ってしまった。
家では妻が子どもにクリスマスのケーキを食べさせていた。
「その子は僕たちの娘じゃないよ」
と僕は言った。
子どもは妻にあやされてきゃっきゃと声を上げて笑っている。
妻は子どもを抱き締めて、言った。
「ええわかってるわ。私たちの娘は光の国へ行ってしまったのよね。でもこの子はここにいて、私に笑顔をくれるのよ」
子どもは妻の腕の中で窮屈そうに身をよじっている。
「伝道師さまは約束を果たされたわ」
と妻はツリーを見上げ、呟いた。
クリスマスの朝、伝道師さまは教会を引き払って消えていた。
「伝道の旅に出られたのよ」
妻と多くの信者たちはもぬけの殻になった教会で、そう言って涙を流した。
僕は妻の肩を抱き、そうだねと頷きながら、伝道師さまの手際のよさに舌を巻いていた。
奴はおそらく違法移民のコロニーにも伝道と称して入り込んでいたのだろう。
そして貧しい若い夫婦が、子どもを飢えさせかけているのを見た。
僕の触法ギリギリの商売とそこから得る表帳簿には乗らない収入にも目をつけていた。
妻は事故の後遺症でもう出産を望めない体になってしまい、それでも子どもを熱望していた。
三方の利害が一致した時、奴は奇跡を約束したのだ。
僕は戸籍を捏造し、テッサは僕等の次女としての人生を得た。
妻は毎年、テッサと一緒に手造りのリースをこさえて、小さな娘の墓を飾る。
これが僕らのハッピーメリークリスマス。
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