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少女の網膜はぷかぷかと浮かぶベッドを映したあと、見あげる形でブロンドの女性を捉えた。
「ママ、あのアンドロイドがほしい!」
「だめよ。どうせすぐに飽きるでしょ」
小さな部屋のような設計がされたショーウィンドウ。そこにいた女性は優しくシンディに微笑みかけた。
シンディは母の返答を予期していた。リサイクル会社で激務に追われる父とは違い、母はシンディのわがままを聞こうともしない。
シンディはアンドロイドがほしくてたまらなかった。終いには、隣のドリームナイトで空飛ぶベッドを観察するふりをして足を止め、店頭の小さな一室に飾られたアンドロイドをねだる始末だ。
しかし、今日は秘策があった。シンディが大げさにうなずくと、ショーウィンドウに〈SOLD OUT〉という文字の羅列が流れ、すぐさま新作ゲームの広告画面となった。
「あら残念。さあ帰りましょう」
シンディはなにもいわず母の手を握った。空いている右手で小さな空間スクリーンを起動し、視覚共有を外しながら。
『ステファニー型C2001番、再起動』
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