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第壱話 マッチ売りの少女?
秋風が空き缶をつまらなそうに蹴飛ばした。
人間を食らう怪物でも近寄らないような地下の歓楽街。
ある者は麻薬を貪り、奇声を叫び合っては仲間達とゲラゲラと笑っている。またある者達は、秘め事を商売に……と、言わんばかりに交じり合って、そこに群がる観客から金札の雨を降らせて貰っている。
露店や飲食店なんかも煌びやかな割には、機能しているのかすら解らない程に汚ならしく見えた。
そうして隈無く左右を見ても、前後を何度も振り返ってみても、常識に並ぶような人間はいない。そう断言出来る程に荒んでいる。
心なしか、そこに浮かぶ空さえもどす黒く見えた。
そんな場所にひょこっと現れた一人の女が異質な空気を見る者に感じさせた。
尻まで伸びた金髪は、頭頂部で雑草を生やしたように結われている。何を目にしようが無表情なままの顔は、人形のように不気味で美しかった。
それにつけ加え、豊満な身体つきが魅力的だ。なのにも関わらず、太股や肩を遠慮なく露出したスリットドレス。歩く姿は堂々としており、こんな治安の“ち”の文字もない街では襲って下さいと言ってるようなもの。
しかし、声を掛ける者は誰一人として居なかった。
美白の肌を遠慮なく抉った首から腕にかけての無数の傷と、右手に握られた大型のククリナイフが彼女の異質さを周囲へ雄弁に語る。
「……お腹減った」
彼女の深い溜息が滴った。
表情には出ないが、相当弱っているのか……彼女は人気のない路地裏に潜り込み、その場に腰を下ろす。
大きく鳴る腹の音に続く溜息は、次第に深さを増していった。
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