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「あっ、王ちゃんだ~!!」
「本当だ! 王ちゃん、今日は店来ないのぉ~?」
「気が向いたらな。今日は仕事に顔出しよ」
「じゃあ朝まで待ってるから。絶対来てねぇ~!」
「はいはい……っと」
いつもの飲み屋のキャッチ。慣れたように躱して、俺は仕事場へと向かっていた。
相変わらず、どこを見ても卑しさ垂れ流しの汚ねぇ人間ばかりだ。 けど、それも俺にとっては見慣れたもので好きな景色の一つだ。
幾つも並ぶ眩いネオンの看板。だがどこも扉を開けりゃ、どす黒さが目につく人間共ばかりで、華やかさなんてものは微塵も感じられない。
美人な姉ちゃん達を囲んで、楽しく酒が飲めりゃ上等。それ以外は地獄で、金や腕っぷしの強さばかりが物を言う世界。
頭の悪い奴や弱者は生き残れない、正に泥酔した閻魔がのさばった街。俺は嫌いじゃない。
「アンタ余所者だろ? ちょっと位付き合えや」
「無理」
「俺と居りゃ少しは街で大きい顔出来るぜ? ほら、来いよ」
「無理」
いつもの路地に、よく見掛ける顔とそうじゃない奴が居た。
男の方は薬中と女食いで有名な豚野郎、部塚だ。見るからに豚で、毎回キマれば店内で暴れるものだから、出入禁にしてる店が殆どらしい。
だからなのか、ナンパをよくする姿は見掛けていたけれど。
何でも薬を餌に釣るものだから、あんな豚容姿でも女は引っ掛かるようでーー立ち止まり、退屈な目線で部塚を眺める。
女側は壁に手をかけ迫られている為、顔が見えない。
見えるのはライオンの鬣の如く一本に結われた金髪と、男を誘うような容姿だけ。
(……んだ。訳有りか)
だが、腕から覗いた無数の傷跡、刃が矢鱈と長い改造ククリナイフで俺の興味は一心に削がれた。
いい女なら助けてやってもいい。けど、経験上病んでいる女は、例え容姿に花丸がついてたとしても願い下げだ。総じて重てぇから。遊びには向かない。
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