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「これ一緒にどうよ? アンタが知ってるそれより、何万倍も気持ちよくなれるぞ」
「…………」
部塚の腕が退かれた瞬間、飛び込んで来た女の横顔に表情は無かった。錠剤を目の前で散らつかせられ、退屈そうにそれを見上げている。
(顔は悪くねぇんだけどなぁ……惜しい)
如何せん、目つきが悪いし無愛想なのがよく解る。
可哀想だが、こりゃ無視に尽きるな。気分が1ミリも乗らねぇからーーそうして、迂回しようと背を向けた。その刹那、
「う”ぁあぁあ”あああ”ッ!!」
汚い豚の鳴き声が路地を思い切り突き抜けた。
「おまッ……なな、なっ、何じやがるうぅッ!!」
「これ……売れば金になる?」
「あ”ぁあ”あ”ぁ……いでぇッ、いでぇよおぉッ……」
思わず振り返る。すると、俺の前に飛び込んで来た光景は、血の池に溺れた丸太のように太い腕。
「貰うね」
「までっ……待でよゴルアァアッごぶべッ」
血みどろで半狂乱になる部塚を足蹴に、こちらへ何食わぬ顔で向かって来る女に度肝を抜かされる。
耳に響くは、軽快なブーツの足音。それに連なって零だった興味心が沸々と一へと変わって行く。
そうして女は立ち止まり、俺を見上げた。重なる視線。
丸いアーモンド型の碧眼と、それに似合わない鋭い視線が妙に印象的だった。
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