第壱話 マッチ売りの少女?

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「これ……気持ちよくなれるらしいよ」 目の前に差し出された錠剤。 その突飛な会話に、一気に打ち砕かれた偏見。 「あっそ。で? それが何だ?」 「五万から」 「マッチ売りの少女の方が物語的には面白そうだな。要らねぇよ」 握った手首。顔を覗き込めば、女は顔色一つ変えずに口を開いて。 「幻想を見ながら死ぬ最後か…… 確かに読者からしたら、心に残る物語かもね」 「あ?」 突如として走った冷気のような感触に、俺は思わず手を離した。 錠剤が黒い炎のようなものに包まれ、溶けていく。まるでよく出来た手品に、驚愕が隠せない。 「マッチはいりませんか?」 「持ってんのかよ」 「持ってない」 「詐欺どうも。身体売った方が客つくぞ」 「詐欺じゃない。火はある」 女は俺に道を開けるように一歩下がり、指を鳴らした。 すると、今しがた見た黒炎が大きく燃え盛り、部塚の姿を見る見る呑み込んで消していく。 「暖は取れないけど」 骨すら残らず、あっという間に消えた部塚の姿。 何ぞ、これは……開いた口が塞がらない。そんな心境で、女を見遣る。 (てか、何で血……) 一層目立つ、首の傷からの出血。そこに目を奪われていた。 すると、今まで無表情だった女が俺を見、不敵に笑んだのだ。 「火はいりませんか?」 「……煙草もつけられねぇようなソレは要らねぇわ」 苦笑いで、引き吊るばかりの口元。俺はどうやら、未だかつてない物売りの嬢ちゃんに出会っちまったらしい。
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