第弐話 ようこそ、死の扉へ

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第弐話 ようこそ、死の扉へ

「お前の茶番に付き合ってやりてぇのは山々なんだがな、こちとら急いでんだ。退け」 冷たい物言いだったと少し罪悪感が沸いたのは、女が眉を顰めながら俺に距離を取ってからだ。 興味はあるが、それ以上に構っていられない。男としての勘が告げる。コイツにゃ深入りしてはならねぇ、と。 「また明日、会えたらな」 女の頭を軽く叩き、俺は足を急がせようとした。 刹那、握らされた拳。冷めた上に固い感触のソレに、俺の足は止められた。 「おいおい、嬢ちゃん……こりゃ一体、何の真似かねぇ?」 全く察知出来なかった姿、殺意。女のククリが俺の脇腹を未だに狙っていた。 嗚呼……背後から闇討ちなんて、ほんと怖い世の中ですねぇ~。 「何の脈絡も無しにいきなりたぁ……見掛けによらず危ねぇ女なこって。どうした?」 だが、この街じゃこんなの日常茶飯事。要するに俺みてぇな奴は慣れてるって話で、だからこそ余裕綽々と居られる現実。 それを知らない辺り、この女は余所者以外の何者でもない。 「お腹減った」 「……はぁ?」 ベストタイミングと言えるべき所で、女の腹が鳴った。 それも聞いてるこっちが恥ずかしくなる程の、大きな音で。 「それで何でいきなり斬りかかってくるんだか。お前は俺を何だと思ってんだ?」 「金持ち?」 「へぇ。追い剥ぎごっこか、お嬢ちゃん」 「違う。されたの」 「追い剥ぎを?」 女はこくりと頷く。 「だから……、お金。無い」 そうして悪びれもなく、そう続けた。闇討ちがバレても物怖じしない姿は感心するが、どうにもこうにも突っ込み所があり過ぎて呆れるばかりだ。 「さっきの異能とこの刃物は飾りかぁ?」 「何が?」 「とても追い剥ぎに合うようなタイプじゃねぇだろ、お前」 「相手、子供だったから……」 かました皮肉に、女はばつが悪そうな表情を並べた。 あんな風にあっさり殺人を犯した割に、それなりの人情があった事に大層驚きが隠せない。 「何にせよだわ。俺に斬りかかった事情に繋がってねぇけど、そこん所はどう説明つけてくれるのよ?」 「ノリと雰囲気?」 「おう、雰囲気は納得した。んだが、ノリにしちゃ楽しそうな顔してねぇよ。どーした」 ククリを力任せに押し返せば、女は不機嫌な顔で俺を睨むだけ。 何だコイツ……本当に可愛げねぇわ、読めなさすぎて危なっかしい。 「じゃあ……聞いて?」 「何だよ?」 「お腹すいた……」 「それにしたって、こんな物騒な場所でウロウロと…… 駄目だなぁ、嬢ちゃん。迷子にしても、道間違え過ぎだろーや」 だが、一番はーー面白い。その一言に尽きる。 「要は、今すぐにでも金が欲しいんだろ?」 「そう」 「なら付いてきな」 俺がそう歩き出せば、雛鳥のように足音を並べる。 どうやら、この女に警戒心は皆無らしい。けれど、それは裏を返せば、いつ何が起きようが逃げ切れる自信があるからだと俺は推測する。 だからこそ、膨れ上がる興味心。今夜は久し振りに刺激的な一時を過ごせそうだ。
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