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「……何する気ですか?」
仕事場の開場である階段前。女が不機嫌そうに俺を睨めた。
「何もしねぇよ。お前には」
「あっそ」
無愛想に俺を横切り、階段をスタスタと降りていく。
この女、恐れ知らずにも程があるだろ……
「お前の肝っ玉どうなってやがる?」
「どうもなってない。もう何も感じないだけ」
そう言い放った背は、どこか儚さを演出していた。
けれど、それだけだ。こう言った発言で気を引きたがる女を俺は腐る程見てきた。
そしてそれは、決まって外れクジ。慣れ親しめば親しむ程、承認欲求の奴隷に成り下がる。
(過大評価はまだ早い……ってな)
女の肩を叩き、追い越した先にある黒の鋼製扉前で俺は立ち止まる。数秒足らずで女も俺に足を並べた。
無表情で扉を見上げる視線は、正に虚ろで死人のようだ。
「逃げるなら今の内だぞ」
「不思議な人……」
「あん?」
虚を訴えるような視線が、俺にゆっくりと流れて来る。
傾げられた首。表情は無いと言うのに、不思議と煽られている気分にさせられた。
「自ら誘っておいて、逃がそうとしますか」
「まぁ、この先は地獄でしかないからねぇ……
一応若い姉ちゃんには好かれたい方なのよ、俺」
「安心して」
光を通さない死んだ魚のような碧眼が、俺を見上げる。
ふと伸ばされた指先は、俺の頬を優しく撫でながら宙へと滑り落ちて行った。
「そんな感情、私には皆無です」
「と、言うと?」
「無でしかない。何事にもね」
挑発的な物言いで、女は無理矢理に扉を開いた。
鬱蒼としていた階段に眩い光が漏れ、脆い金属音が野郎共の小汚ない歓声に呑まれていく。
そうして扉が開き切った頃には、血腥さと開場の熱気が俺達の中に立ち込めていた。
しかし、女はそれでも動じている様子は無い。
「はっ……じゃあ、嬢ちゃん」
差し出した手。女は顔色を変える事なく、俺を真っ直ぐに見貫いていた。
「ようこそ、デスゲート……通称『獄門』へ」
「“獄門”……?」
「詳細は入ってからだ。俺はここの創始者兼総支配人であり、絶対的王者さ。だからーー」
お前が嫌だと根をあげるまで……“死”を案内してやるよ。
挑戦的な態度には、同じくそれで返すのが俺の流儀だ。
そうして向けた嘲笑に、女は「お願いします」と手を取った。
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