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娘に先立たれた私はその喪失感に
押し潰されそうになっていた。
私が1番長く、咲良の側に居て
過ごしていたからなのか?
他の家族は、葬儀のあと
すぐにいつもの生活に戻っていた。
私だけが取り残されたように
毎日、咲良のことを思って泣いていた。
「ママ、たまには外に出たほうが良いよ!」
「そやね。ほんまやわ(笑)」
引きこもりがちな母親を心配したのだろう
次女の弥生から、外へ出たほうが良いと言われて
私は、久しぶりに家の側にある遊歩道を
散歩してみることにした。
心も身体も魂も何もかもを闇に
包まれたような私には、陽の光が
とても眩しく感じた。
咲良と歩いた時は、こんなにも
眩しく感じなかった筈なのに。
そんなことをぼんやりと思いながら
ただただ、私は遊歩道を歩いていた。
しかし
そのぼんやりが、私に辛い記憶を蘇らせる。
咲良の、あの手の感触…
離れるのは嫌だと泣く私を、困ったように
手を握って笑っていた咲良の顔が、鮮明に脳裏に
浮かんで来て…私の瞳からは、涙が溢れていた。
どうしようもない。
私の心は、悲しみの底無し沼にハマッて
どんどん沈んでしまうしか無いんだ。
この悲しみからは、抜け出せ無い。
抜け出せる筈もない。
深い溜め息をつきながら、自分の胸に手をあてて
私が上着のポケットから、ハンカチを出して
立ち止まって涙を拭っていた…その時だった。
『いつまでメソメソ泣いてんだよ!』
頭の上のほうからその声は聞こえた。
辺りを見渡したけれど、近くに人は居なかった。
そして、
もう1度私が声のしたほうを見ると、人では無く
真っ白な綺麗な蒼い瞳をした猫が、長い尻尾を
パタパタさせながら、私をじっと見つめていた。
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