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成臣の仕事に着いていくようになると、学校で勉強する以外の社会のことがたくさん見えてきて、奈津は楽しくて仕方がなくなった。
世界はこんなにも広いのか。
教科書には載っていない世界がそこには無限に広がっている気がする。自分はなんてちっぽけな世界で生きてきたのだろう。
奈津の貪欲に学ぶ姿勢は見習うべきものがあり、他の従業員にも良い刺激を与える。成臣にもらった万年筆と雑記帳を携え、逐一書き記す姿は見ていていじらしくなるほどだ。
「うわぁ、すごく綺麗」
テーブルに並べられた品物の中で、ひときわ目につくもの。細かな細工が施され、宝石が付いている指輪があった。
「奈津、手を出してごらん」
「はい」
成臣に言われるまま手のひらを上にして差し出すと、その手をくるりと反転させられる。
成臣の大きく節張った男らしい手に触られて、奈津は一気に体温が上昇するのがわかった。
「あ、あの……」
「巷では結婚指輪が大流行しているらしい」
「……はい」
「これは俺から奈津への贈り物だ」
スルスルと指にはまっていく指輪をスローモーションのように見ながら、奈津は胸のときめきが抑えられなくなってくる。薬指に嵌められた指輪をまじまじと見れば、細かな細工と装飾が相まってまるで夜空の星のようにキラキラと輝いていた。
「気に入ってくれるといいんだけど」
「はい、はい、もちろんです。とっても嬉しいです。ありがとうございます。流行するのがわかる気がします。これはもうどんどん宣伝して売り出すべきかと。ああ、でもすでに流行っているから二番煎じになってしまいますね……ううん……」
頬を真っ赤に染めながらも商売に結びつける奈津に、成臣はクスクスと笑い出す。
「な、何か変なことを言いましたか?」
「いや。奈津は本当に向上心があるね。教師よりも商人に向いているよ」
「そうでしょうか?」
「うん、そういうところが俺は気に入っている」
「気に入って……え?」
「好きだという意味だ」
「ひゃっ」
顔がボンっと音を立てたかのように、奈津は口をパクパクさせて驚く。そんな初心な仕草に成臣はまたクックと笑いながら奈津の頭を優しくポンポンと撫でた。
「期待しているよ、奈津」
「……はい」
何に対して期待されているのか、よくわからないまま奈津は小さく返事をした。きっと仕事にたいして期待しているのだ、そう思うのに、顔の火照りはしばらく治まらなかった。
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