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「わ、私、成臣さんに渡したいものがあって」
「うん?」
奈津は懐から夫婦守りを取り出す。
ずっと握りしめていた。
成臣が無事でありますようにと。
「御守り?」
「夫婦守りっていって、夫婦でひとつずつ持つといいらしいです。えっと、その……私、成臣さんと……ふ、夫婦になりたくて……」
恥ずかしくなって途中から言葉尻がごにょごにょと不明確になってしまう。頬は熱を帯び、茹で蛸のようだ。
「め、迷惑だったら別にいいです」
「迷惑なわけないだろう」
成臣は奈津の手からひとつ御守りを受け取る。目の前で揺れる御守りに、成臣は目を細めた。これを奈津が選んで買ってくれたのだと想像すると、可愛らしくてたまらない。愛しい気持ちが込み上げる。
「ん? これは……」
「え?」
成臣が手にした御守りは、横に大きく裂け目ができていた。
「や、やだ、どうしよう」
強く握りしめすぎたのだろうか、奈津はあたふたと慌てるが、成臣は「いいんだよ」とおもむろに寝巻をはだけさせた。成臣の程よく筋肉質で白い肌が露わになり、奈津は「きゃっ」と小さな悲鳴を上げて思わず目を背ける。
「見てごらん、奈津。ここを怪我したんだ。切りつけられてね、ちょうどこの御守りと同じ、横に大きくね」
恐る恐るそちらを見れば、傷こそ見えないものの、痛々しく包帯が巻かれている。
「っ……」
「そんな泣きそうな顔をするな。本当に、大したことないから。きっと奈津が買ってくれた御守りが身代わりになってくれたんだろう」
「本当に? 本当に大丈夫なんですか?」
「本当だよ。治ったらお礼参りにでも行こうか」
奈津はコクコクと頷く。
本当に、この御守りが成臣の身代わりになってくれたというのなら、この上なくありがたい。
(成臣さんを助けてくださってありがとうございます)
奈津は御守りを握りしめ、何度も何度も心の中で唱えた。
窓からは夕陽が差し込み、わずかに開けた窓からはひんやりとした空気が流れ込んでくる。けれどほてった体には心地良く感じる。
成臣は身なりを整えてから奈津を見つめる。その視線に気づいた奈津も成臣を見つめ、二人の視線が甘く交錯した。
「奈津、仮初めはもうやめよう。正式な夫婦となってほしい」
「はい、成臣さん」
「結婚式も挙げようか」
「本当ですか! 嬉しいです!」
口元を押さえ喜びを露わにする奈津は、完全に乙女で。結婚するつもりはありませんなどと豪語していたのがまるで嘘のように目を輝かせる。
「好きだよ、奈津」
成臣が奈津の頬を撫でる。その手つきは優しく、奈津は自分から寄り添いながらうっとりとした。
「……私もです」
少しはにかみながらも答えれば、熱を孕んだ成臣の柔らかな眼差しにくぎ付けになる。
見つめ合えば見つめ合うほどお互いの想いが高まっていくようだ。
そして--。
求めあう二人はどちらからともなく口づけを交わした。それはとても甘く優しく、これから先は幸せになる未来しか見えないような、そんな予感を彷彿とさせたのだった。
【END】
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