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「魔力」「魔素」「瘴気(有害魔素)」
薪をひろい終わって野営地まで戻ると既にテントが張り終わっていたので…
(…せめて構造を理解しておいて、いざという時には自力で張れるように後日屋敷の中庭で練習しよう…)
と思った。
ちょうどイーサン・ブレイク教官が
「おーい。肉の処理をするぞー。肉を捌けるヤツは手伝え」
と声を上げたので、料理が特技のレベッカは早速名乗りをあげた。
「できます。やります!」
と言って駆けつけると…
34人分の食事を賄うには少々量が多すぎる(?)
量の野鳥と野生動物の死骸が並んでいた…。
「…こんなに沢山…。食べきれないと今の時期はすぐ腐るんじゃないですか?」
とレベッカが疑問を口にすると
「塩漬け、干し肉、燻製、といった保存食加工も天気が良い日に覚えるべき雑用任務だ。立派な仕事だぞ」
とイーサン教官がニヤリと笑った。
「なるほど」
とレベッカについて来たルシアンも納得して
その場に集まった皆で皮剥ぎに入った。
「上手いもんだ…。一流の料理人のような手際の良さだな。今時は侯爵家では令嬢に料理を仕込むものなのか?」
と不審がられたので
「…自分の食べるものは普段から自分で作ってます。…毒を漏られて以降は…」
と端的に事実を述べてやったら
「…怪我の功名ってヤツか…」
と意味の分からない事を言われた…。
(怪我の功名って、自分が何か失敗して、その結果が以外に良かったりする場合の事を言うんだろうし。私の場合とは違うと思うんだよね…)
と腑に落ちないものを感じたが、あえて口答えはしなかった。
「刃物に魔力を纏わせて切れ味補正する」
といった騎士特有の魔力の使い方をレベッカはほぼ無意識のうちに習得してしまっていて、硬い筋肉でさえもサクッと切れる。
誤って怪我するようなミスもなく、寸分の狂いもなく刃を当てるべき箇所に正確に刃を当てていく様は精密機械のよう。
(…人間がこんな動きをできてしまうのか…)
と、周囲にいた者達は畏怖に近い感情が湧き起こるのを感じた。
塩漬け肉は雑菌の繁殖を抑えるために塩漬けするだけだが
燻製肉や干し肉はもっと手の込んだ加工が必要になる。
煙で燻して熱を通し、雑菌を死滅させる。
一度煮込んだ肉を乾燥させて干し肉にする。
保存食作りには雑用班の11人が総掛かりで作業する必要があった。
なので昼食は昼食用の分の肉を網で焼いて交代で食べに行った。
戦闘訓練班の連中が
「魔物を倒して魔石を取り出した」
「魔物の死骸から素材剥ぎ取りをした」
とか言って盛り上がってる中
(そう言えば魔物の素材剥ぎ取りなんかは本でしか見た事がないんだよな…)
と思いながら、レベッカもついつい聞き耳を立てた。
騎士の指導のもと魔物討伐の真似事のように魔物狩りを楽しんでいたらしい戦闘訓練班の連中だが。
魔物を殺す際に素材をダメにしてしまっていたり
魔石を取り出す際に位置を掴めず肉をグチャグチャにしてしまったりと
随分無駄にグロテスクな訓練風景だった様子…。
魔石は魔物の体内にある魔力が凝結して出来るものらしいが…
魔物の体内は魔力に限らず「瘴気」と呼ばれる有害魔素も流れている。
この世界ーー
基本的に人間も魔力持ち以外の人種は全員体内で魔力の代わりに魔素を発生させている。
人体に7箇所あるチャクラは
「魔力・または魔素を発電するモーター」
のようなものなのだ。
魔素は魔力と違って魔法を使うエネルギー源にならない。
「魔素は魔力が劣化してエネルギーとして役立たずになったものだ」
というのが研究者の間で語られている定説。
人間や普通の動物の中で作られる魔素は魔法のエネルギー源にはならないものの、身体に害をもたらすほどに劣化してはいない。
だが魔物の体内で作られる魔素は「瘴気」と呼ばれる程に有害化が進んでいる。
それでいて魔物は瘴気のほかに自分の中で魔力をも創り出している。
そうした両義性によってーー
魔物の死後、魔物の体内に残存していた魔力が凝固して魔石になってしまうものらしい。
魔石は魔道具を稼働させる電池のようなもの。
魔石の中の魔力が空になりきる前に魔力を注いでやれば、延々と電池として再利用可能。
魔力が空になるまで放置されれば凝固成分の脆化が進み、些細な衝撃で壊れやすくなる。
(…そう言えば、この世界には「魔道具用の魔石に魔力を充電する仕事」というものがあって、食い詰めた没落貴族がそういった仕事で日銭を稼いでるって話もゲーム中に登場してたよな)
と作中に登場する世界観の作り込みの細かさに、一々感心していた事を思い出した。
レベッカは自分が破滅した際の身の振り方の一つに
「魔石に魔力を充電して日銭を稼ぐ暮らし」
を選択肢の一つに追加する事にした。
あと、今回の参加者選別で
(魔力がもっと有れば…)
と痛感した事もあり…
今後の課題の一つに
「魔力量を増やす事」
も付け足したのだった…。
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