ロドニー・デューの独白:1

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ロドニー・デューの独白:1

62559bb9-211f-425d-b900-0f9b9826f7d4 不思議な事に前世の記憶というものはーー 「前世と同じ死因で死にかける」 事で蘇る事もあるものらしい。 誰でもそうだと断言はできないが… 少なくとも俺が前世の記憶を思い出したのは 「前世の死因と同じ出血多量で死にかけた」 からだ。 この世界の上級ポーションーー 傷を塞ぐ効き目は優れているが流れ過ぎた血液までは補えない。 大量の血液が既に流れ出た後で上級ポーションを使われても 体内の血液が不足した低酸素状態で意識は朦朧。 骨髄が血液を作り出してくれるのを待ちながら 全身が生命活動をスリープモードで省エネ。 そんな中で俺は夢を見た。 前世の夢を。 それによってーー 今俺が生きてる世界が 「ゲームの世界だ」 と分かってしまったのだった…。 ******************* それはある意味で前世の妹のおかげだ。 前世の俺の妹はいわゆる腐女子。 イケメンがウジャウジャ登場するゲームやらアニメがお気に入り。 作中のシナリオは完全無視して 「気に入ったイケメン同士をカップリングした二次創作を行う」 のが趣味というタワケだった…。 「オタばれするのが怖い」 などといった 「世間体を気にする常識的感性」 も持ち合わせていない図太い神経。 妹が乙女ゲームにハマりまくった理由も 「ヒロインになりきって攻略キャラとの恋愛を楽しむ」 などという普通の楽しみ方ではなく 「隠れキャラやらモブキャラの中から一人でも多くお気に入りを見つけて、男同士の絡みのネタを作中から拾い上げてやる!」 といった粘着な欲望ゆえのドはまり…。 ヤツはああ見えてかなり気合いの入った腐女子で 同人誌マニアの間では 「先生!」 と呼ばれる同人作家の一人だった。 俺のような気の弱いノーマル性癖のアニオタには理解不能な不思議な世界。 そういうものが日本のサブカル界隈には ポッカリと奈落のように穴を開けていて 女どもの精神を腐界の闇へと呑み込んでいた…。 BLはあくまでも女どもの特異な「妄想文化」。 そして俺の妹がハマっていた腐界の闇は深かったーー。 同じ職場の無口な同僚が俺の妹が同人作家だと知った途端に 如何に妹が偉大であるのかを マシンガントークでレクチャーしてくれた事があった。 お陰で俺は「無口で大人しい女性の密やかな趣味」に話題を振る事が しばし地雷を踏み抜く事になるのだと悟った。 オタばれを一切怖れず、家族の前でも堂々と腐界ネタをかます妹の影響で 「イケメンがウジャウジャ登場するゲームやらアニメの登場人物」 に関してはパズルのピースのように切れ切れに記憶が残っている。 勿論、本来のシナリオはよく知らない。 知ってるのはイケメンキャラの容姿と作中の役割だけ。 同人作家の脳内ではイケメンキャラの内面は悉く 「同性を恋愛対象として見てしまう恋愛脳」 へと変換されてしまうものらしく… 公式なシナリオは妹の作品の中ではほぼ 「パロディー化された形でチラッとネタとして登場する」 のみだった。 なので俺自身 「あっ、俺、乙女ゲームの脇役に転生してるんじゃ…?」 と気がついたものの 「この作品のタイトルって何だったっけ?」 「この作品のシナリオってどんなだったっけ?」 といった具体的な点において無知なのであるーー。
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