ロドニー・デューの独白:3

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ロドニー・デューの独白:3

e0a9e0be-4033-4e6e-a679-2992a24937c2 王立騎士団は正式には騎兵団である。 公立兵団は大雑把に三つに分かれる。 王立騎兵団 国立衛兵団 国立警備兵団 騎兵団は言わずと知れた騎馬兵。足回りの利く軍属。 衛兵団は王宮や公共施設の衛兵。主に要人警護の武官。 警備兵団は治安維持のための兵団。犯罪者の捕縛は警備兵の仕事。 王立騎士団へ見習い入団して三年間訓練を経れば 誰でも試験に受かって騎士資格を得られるという訳ではない。 年に一度、騎士資格取得試験がある。 「18歳以上」 「魔力持ちであること」 「愛国心があること」 「三年以上の戦闘訓練もしくは戦闘実践を経ていること」 「身元が確かであること」 という条件を満たしていれば良い。 見習い入団して準騎士になれば 「騎士資格取得試験に受からなくても、延々と何年でも騎士団に居座れる」 (飯を食うには困らない) のだ。 そして準騎士として騎士団で三年間以上の見習い期間を過ごせば 「騎士資格が取得できなくても、衛兵団か警備兵団へ移籍して下っ端としてだが正規雇用にあり付ける」。 そんな中でーー 「近衛騎士」 という役職はちょっとしたエリート。 騎士資格取得試験に合格して騎士資格を得た者の中から 見た目や家柄も考慮され 衛兵団の花形幹部「近衛騎士」へと抜擢されるのだ。 何せ見た目が醜い者や実力がない者や身元の怪しい者を王族に近づける訳にはいかない。 選考基準は見た目が良く実力があって身元も確かな者達。 だからこそなのだろう…。 高慢に見えていたという事なのか… やっかみ、ねたみ、劣等感を拗らせた悪意。 そういうものを向けられて俺は死ぬ目に遭わされた…。 騎士資格取得試験の一環である模擬戦ーー 手合わせ終了後に背を向けた途端 背中から袈裟懸けに斬られたのだ…。 刃を潰した模擬剣を使っていた筈なのに… 実に鋭い切れ味で斬られ ドクドクと勢いよく血液を失っているのが自分でも分かった…。 そうして俺はーー 「出血多量で死にかける」 という体験をして、この世界が乙女ゲームの世界である事を知ったのだった…。 ************* 前世の記憶を取り戻す長い夢から目覚めてみるとーー イーサン・ブレイクとマーカス・モーズリーが枕元で見守ってくれていた。 不思議な気がした。 ロドニー・デューとして18年間生きてきた記憶もあるのに 木下要(きのしたかなめ)であった前世の記憶も加わって アイデンティティが安定しない感じというのは何とも心許ない…。 それでも状況を理解して 「…心配かけてすまない。…俺はどれくらいの間寝てたんだ?」 と訊くと 「寝てたというか…。意識が無かった感じじゃないか?揺すっても何の反応も無かったし、ここまで運ぶ間も異様に軽かった」 とイーサンが答えてくれた。 不思議な事に寝てる人間は重たいのに意識の無い人間は軽い。 上級ポーションで怪我を塞いでも出血多量で意識を失う。 そんな事態は戦闘訓練を兼ねた魔物狩りの際にイーサン自身も体験していた。 その時は俺とマーカスが救護室でイーサンを見守っていた。 寝てる間に良からぬ事を仕掛けようとしてくる輩が救護室に入り込んで来るかも知れないという心配故に見守りという名の見張りについていた。 ようはクズな男色家達を牽制していたのだ。 「…それにしてもクズな奴だったな…。勝敗が付いて背を向けた途端に背後から斬りつけるなんて…」 とマーカスが対戦相手だったハドリー・ケンブルを評した。 「…俺は相手の殺気には敏感なんだが…。アイツは殺気も纏わずに真剣で背後から斬りつけてきたんだな。…アイツの精神構造が特殊なのか、殺気を読み取る俺の技能が未熟なのか…。いずれにしてもぬかったよ…」 俺がハドリーの殺気の無さに対する違和感を口にすると 「そうだったのか?」 とマーカスが驚いたように目を見開いてイーサンと目配せし合ったので (おいおい、何なんだよ?) と意味が判らずに首を傾げると 「…ヤツは『剣が真剣だとは思わなかった』『規定通りの模擬剣だと思ってた』と言い訳をしてたんだ。単に負け惜しみで背後から切り掛かって嫌がらせしたかっただけだと。誰かが真剣にすり替えていたんだろうと言い張って殺意を認めなかった。…どう思う?」 とイーサンが声を潜めて尋ねてきた。 「…本当なんじゃ無いのか?ハドリーは剣の腕はそこそこでも殺気を隠蔽するような高度な腹芸はできないタイプだと思うぞ。…単細胞で後先考えないような面があるし。…まぁ、俺の側にアイツの殺気隠蔽力を認めたくないという気持ちもあるからそう思うのかも知れないがな」 俺はかなり正直に自分の気持ちを話した。 俺は前世でも今世でも共通して 「後先考えない刹那主義的タイプの人間に対しては辛口の評価しかしたくない」 という性格のようだ…。 前世でも知人の中には幾人か 「後先考えない刹那主義的な犯罪者タイプ」 のような男がいた。 当人の中ではそういった犯罪者気質の迷惑な性質は 「ヤンチャ」 だのといった可愛い言葉で美化されていた。 ゲーム世界内でも 「弱い者イジメ大好きなクズ」 は湧いているが… 現実世界の日本でもそんなクズは大勢いた。 自殺に追い込むまでイジメておいて 「からかってただけ、イジって遊んでただけ、冗談」 で済まそうとするクズ。 そんな連中が犯罪者として逮捕される事もなく実に伸び伸びとその後の人生も好き放題に楽しそうに生きていたのを見せつけられて… 俺は学生時代にはすでに 「悪の勝利が大々的に見せつけられる」 事による 「社会倫理の崩壊」 を内心で危惧していたものだった…。 その手の連中は 「痩せ薬」だのと言って覚醒剤を 「万能薬」だのといって大麻を 「成長薬」だのと言ってステロイドを売り捌き 「ヤツらを仲間だと思い込んでる警戒心弱者達」 の人生を依存症や副作用で壊していた。 後日多くの者達の知るところになったがーー 結局その手の輩は暴力団の血縁者だった。 日本の暴力団の上層には 「日本人のフリをした外国人達」 が喰らい込んでいる事は誰もが知ってる事実。 なのにドラマや映画に日本人ヤクザが登場すると不自然なくらいに誰もが 「日本の裏社会は侵略者達に乗っ取られている」 という現実を無視し 「日本の暴力団は日本人」 という虚構認識にのめり込んでしまう。 「未成年」 である事を盾にして犯罪を犯しまくっている連中が (国籍は日本国籍を取得していても) アイデンティティを日本に置く本物の日本人ではないのだという… (アイデンティティ外国人なのだという) そういった限りなく真実に近い疑惑にも 誰もがマトモに向き合う事すらせず 指摘もしなければ批判もしない。 そんなーー 「ある種の反社会的人種にとっての犯罪し放題の楽園」 みたいな社会において 楽園の中で甘やかされながら 「後先考えない刹那主義的な犯罪者タイプ」 の連中が伸び伸びと生きていたのだから… その手の人種を連想させるような単細胞に対して 「評価したくない」 という嫌悪感を感じるのは至極もっともな感情なのだった…。
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