ロドニー・デューの独白:4

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ロドニー・デューの独白:4

88424a29-1547-4a3a-98ee-187e17813d20 俺が第一王子ドミニク・ホレス・シーウィル・レヴァイン殿下と出会ったのは 『騎士団見習い志願者用研修会、二週間野営コース』 というサマーキャンプの教官役としてだった。 この『騎士団見習い志願者用研修会、二週間野営コース』というサマーキャンプ。 ようは王立魔法学院中等部入学前の10歳から12歳までの子供達を対象としたいわゆる「騎士団誘致イベント」である。 貴族の子弟には 「爵位を継いで領地運営」 「領地運営する家族に協力して商売」 「城仕えに仕官(文官)」 「騎士団に入団(武官)」 「平民になって自由に商売」 などといった進路がある。 「選択肢を確保しておきたい」 と思う子供は多い。 爵位を継げない次男以下の子や庶子は特に。 そんな事もあり研修会の参加希望者は多かった。 参加希望者リストの中にはゲーム内で攻略対象者としてお馴染みだった名もあった。 ドミニク・レヴァイン(第一王子) ロードリック・クロックフォード(第一王子の友人) グレッグ・レヴァイン(第二王子) エリアル・ベニントン(第二王子の友人) の四人。 ゲームは王立魔法学院高等部が舞台になっていた筈なので この時の彼らの年齢が12歳・11歳という事を考慮すると 丁度ゲーム開始の4年前という事になる。 本来ならサマーキャンプの教官役に王族の近衛騎士が就く事はない。 だが参加希望者の中に王子が居て、しかも参加者選抜でも勝ち残りそうな場合は王族用近衛騎士の中から「参加者と歳も近い者達」がその役に就かされる。 …この役目が振られていなければ… 俺とイーサンとマーカスは夏季休暇明けからの近衛着任だった。 つまり騎士団の士官養成過程終了後から近衛着任までの間 「本当なら長期休暇だった」 筈なのだ…。 なので表情には出さないまでも (うわぁ〜。面倒くせえ…) と思っていた。 それでも前世の記憶が戻ったという事もあり 「攻略対象者達への興味」 は少なからずあった。 腐女子達の脳内では俺という存在は 「ドミニク王子とグレッグ王子との間で揺れ動くオカマ」 らしいし… 何よりも今後の護衛対象となる王族の一員でもある。 (どんなお子ちゃま達なんだろう) と興味津々で観察したのだが… その当時からドミニク王子には何とも言えない色っぽい雰囲気があった。 12歳のガキで、しかも男だというのに… 「色気」があるのだから、末恐ろしい…。 実際に攻略対象者となる未来のイケメン達を間近に見ながら… 「イケメンは子供時代から美形なんだなぁ」 と当たり前の事に感心した。 イケメンは子供の頃から美形。 だがブサメンは全員子供の頃からブサイクかと言えば 一概にそうとは言えない。 子供の頃は美形だったのに成長過程の経験や環境次第でブサメン化する者も多い。 不安定な環境で生きると特に子供時代と青年期の格差が大きくなるのだ。 ドミニク・レヴァイン王子は美形のまま育ちそうな人物筆頭だった。 その他にーー ドミニク王子以外で目立っていたのが 子供冒険者風の格好で会場に来ていた侯爵家令嬢だ。 レベッカ・ルース嬢…。 若干11歳にして他人を寄せ付けない孤高の雰囲気の美少女…。 (うん。絶対イイ女になるな…) と分かりきっていた事もあり (親切にしておこう) とも思ったのだが… 俺よりも一年早く騎士団の士官養成課程を終了して近衛任務に就いていたエセル・アボット、デール・フレッカー、ドルフ・ラティマーの三人がレベッカ嬢のことで目配せし合っていた。 何事かと思い事情を訊いてみると… 数多存在する社交界の醜聞ネタの一つに 「アザール王国王弟セヴラン・ルネ・シャントルイユ・ド・ブロイ・アザール殿下が12年ほど前に外遊のため我が国の王宮に滞在していた事があったが、我が国のご婦人方の多くがかのかたに熱を上げ、幾人かのご婦人がかのかたのご帰国後に紅玉色の瞳と灰褐色の髪の子供を産み落とした」 というものがあるのだそうだ。 紅玉色の瞳も灰褐色の髪もアザール王国の王家の者達の持つ色。 つまり11歳の子供がその色を持っていたら ーー隣国の王弟殿下の胤ーー と判断される。 そういう露骨な托卵雛は里子に出されるなどして 「死産だった」 という事で処理されるものらしいが… レベッカ嬢の場合は普通にグラインディー侯爵家の令嬢として育てられた。 誰もが 「グラインディー侯爵は何故レベッカ嬢を里子に出さなかったのか?」 と訝しんだのだが… レベッカ嬢の容貌が 「とある女性の子供時代に生き写しだ」 と気づいた人々によって 「レベッカ嬢の本当の親は…」 という話題はこの国きっての禁忌となった…。 表向きレベッカ嬢を産んだとされている故グラインディー侯爵夫人は難産の末に出産直後に意識を失い数時間後に死亡。 死人に口なし。 レベッカ嬢が本当にグラインディー侯爵夫人の産んだ子供かどうか分からない。 しかも出産に立ち会った者達は行方知れず。 何とも怪しさ満点の話である。 そんないわく付きの生立ちを持つレベッカ嬢が普通のお気楽令嬢に育つ筈もなく… 他人を寄せ付けない硬質な雰囲気を持つ美少女を見て俺は (…もしかして「悪役令嬢」というヤツなのか?) と疑惑を持ったのだった…。
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