アカオト世界の婚約事情

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アカオト世界の婚約事情

a767e7a3-d8de-4502-87ba-342ad86aa30e 「完全なる親同士の都合による婚約」 の場合、子供達は王立魔法学院に入学する前に婚約させられている事が多い。 要は虫が付く前に売約済み状態にしておく訳である。 一方で 「相性というものもあるだろうから…余りにも人生の早い段階での婚約は両家の絆を深めるよりは絆を断絶させる結果になる可能性もある」 という考え方をする者も多い。 ゆえに 「結婚適齢期になってから当人と家の都合に合う相手を選びたい」 所だが… 「男性の側の結婚適齢期が10代後半から30歳前後までと幅広い」 のに対して 「女性の結婚適齢期は20歳前後と短い」。 行き遅れになって売れ残ると 「何のために育ててやったのか」 と親の側の利益もなくなる。 そんな事もありーー 貴族令嬢は学院に入学後に婚約者を見繕われる事が多い。 「家同士にとって都合が良くて、当人同士も相性が悪くなければ問題ないだろう」 という判断で。 王立魔法学院へ入学すれば、レベッカの世代は錚々たる顔ぶれである。 王太子をはじめとする3人の王子が同世代。 王太子である第三王子は隣国の王女と生まれながらに婚約が定められている。 (レベッカやヒロインより2歳年下。面識はできるが基本的に恋愛対象外) 一方で側妃から生まれた第一王子と第二王子は 正妃の子の第三王子と違って国を背負ってる訳ではない事もあり 「国内の貴族令嬢の中からお相手を選ぶ」 事になる。 公爵家・侯爵家レベルの家柄の令嬢が婚約するとなると 「王太子の座を狙っているのか?」 という火種を生む元凶となるので 二人の王子に関しては 「財力も家格も大した事のない貴族令嬢が押しつけられる」 というのが専らの世間の見方。 ゲーム内での第一王子のドミニク・レヴァインの婚約者は子爵家令嬢のグロリア・ケンジット。 第二王子グレッグ・レヴァインの婚約者は伯爵家令嬢のユーフェミア・フィッツロイ。 いずれも財力に乏しく派閥のコネもない貴族。 ここでの現実と合致しつつある。 なにせ財力のある貴族や高位貴族が娘を第一王子・第二王子の婚約者として差し出す事は、正妃の実家であるオークウッド公爵家に睨まれる事に繋がり… 「王室の既存権力図に露骨に喧嘩を売る事」 になるからだ。 それと共にーー 王太子サディアス・レヴァインの婚約者が隣国王女である以上 サディアスの座を脅かす事は隣国との友好関係にもヒビを入れる行為となる。 現国王の正妃は二重三重に 「側妃の生んだ第一王子・第二王子に対して諸侯が肩入れできないよう」 布石を敷き詰めている。 そんな事情が、暗黙の了解として認識されてる社会…。 ゲームの中ではーー レベッカは 「ブライトウェル辺境伯嫡男のエリアル・ベニントンと婚約」 していた。 「いつ婚約したのか」 という説明部分はーー エリアル・ルートの中でエリアル自身がヒロインへ語る場面があった。 二人が王立魔法学院に入学した後、学院長経由でブライトウェル辺境伯へ在学中の令嬢達の容姿や家柄が伝えられ… 辺境伯自身が 「未来の息子嫁としてレベッカを選んだ」 という事が分かっている。 つまりレベッカとエリアルの婚約は当人達の相性は全く考慮されておらず 「単に辺境伯がレベッカの容姿と家柄を気に入ってグラインディー侯爵家へ打診した」 後に 「グラインディー侯爵も大喜びで娘を辺境へ嫁に出す事を決めた」 というのが事の顛末である。 「レベッカ自身がエリアルに気に入られて婚約」 という場合は 「気に入られないようにすれば婚約せずに済む」 という道も拓ける可能性はあるが… 容姿と家柄で勝手に向こうの親に気に入られて勝手に親同士の間で婚約話が纏まるのだから… 顔に傷でも付かない限り婚約は避けられない。 とは言えレベッカが 「顔に傷を作ってでも婚約を回避する」 ような愚行をおかす筈もない。 ヒロインがどの攻略対象を選ぶのかは ヒロインが学院に入ってくる年にならない事には分からない。 ヒロインがエリアルを選ぶ可能性に怯えて 不自然に婚約を回避する必要性はないのだ。 乙女ゲームの攻略対象は複数。 『暁の乙女と時空の虚無神〜革命前夜〜』の場合 メジャールートにおける攻略対象は四人。 ドミニク・レヴァイン(第一王子) ロードリック・クロックフォード(第一王子の友人) グレッグ・レヴァイン(第二王子) エリアル・ベニントン(第二王子の友人) マイナールートにおける攻略キャラは二人。 バートランド・ブロデリック(講師) ダスティン・フェアフィールド(第二王子の近衛騎士) 4be8e804-5ba7-4eca-bd70-8d533900089779d0349e-4c6e-4960-818f-f48d710b743cc037a9d5-c69e-4622-aef6-88779c9d021d09abe5eb-5628-47a6-99d8-37062d7f114821ea3f97-f2a9-4a2b-b292-df033249f51857e2b5b0-4835-4b58-92b5-68e3c4b762da 隠しルートでは悪役令嬢がヒロイン役になるパターンもあり その中には(攻略対象外である筈の) 王太子サディアス・レヴァインが攻略対象となるルートもある。 (隠しルート以外の) 正規ヒロインがヒロインを演るルートでは攻略対象は六人。 つまりはレベッカの婚約者であるエリアル・ベニントンがヒロインに選ばれる確率は六分の一。 レベッカは特に 「ヒロインがエリアルを選んだ場合に自分に降りかかる破滅フラグを折っておく」 といった必要性を感じていない。 処刑エンドを免れる方法は簡単。 単にイジメなければ良いのだ。 記憶を取り戻す以前のレベッカだと、父親が慢性的に不機嫌であるのを真似てでもいるかのように盲目的に慢性的不機嫌な人間性だったので処刑エンド回避は難しかっただろうが、今のレベッカは一味違う。 慢性的に不機嫌な人間を模倣する状態から綺麗さっぱり抜け出してみると、意識もスッキリ。 勉強もはかどり、遺伝子の持つスペックの高さをそっくり引き出す事ができた。 そこで試したいと思うのは 「サバイバル術の習得」 である。 乗馬は貴族令嬢にも許される嗜みの一つ。 護身術として短剣を振るうのも不自然ではない。 長旅は野営になるので野営術を身に付けるのもありだ。 ヒロインが選んだルートの悪役令嬢だと処刑エンドを逃れても 身分剥奪、国外追放、奴隷落ちが待っている可能性が高い。 騎馬術・護身術は当然身につけておきたいし それに加えて馬の世話や野営術も身につけておきたい。 令嬢が急に 「野営術を身に付けたい」 などと言っても不審がられるので 「貴族でも楽しめるキャンプ的なイベントは無いものか」 と密かに探した。 使用人達のお喋りに聞き耳を立てていたところ 「騎士団見習い志願の子供達が二週間野営する研修会がある」 といった噂を聞き付けたので 「参加できないものか」 と思った。 一昔前までは女騎士は存在すらしていなかったのだが… 「女性王族を護衛する近衛騎士に限っては女騎士が重宝される」 ようになっている世の中。 需要があるので女騎士を目指すと言っても、さほど突飛とはとられない。 レベッカが早速グラインディー侯爵ことイーデン・モルデカイ・トビアス・ルース、つまり自分の父親の在宅時に書斎へ押しかけて 「近衛騎士になる道も考えたいのです」 と力説しても、妙な疑いは持たれなかった。 イーデンはレベッカの言葉に対して 「お前の進路に関して今の所具体的に考えがあるわけではないが…。 どこぞかの嫡男に嫁いで貴族夫人になるにしても近衛騎士になるにしても、お前を生み育てるという形で我がグラインディー侯爵家がお前に投資している事を忘れるな。 いずれグラインディー侯爵家へ恩を返さなければならないと胆に銘じているのなら、お前が学びたい事を学ぶのも、身の振り方の選択肢を広げるのも認めてやろう」 という返事。 歯に衣着せぬ本音なのだろう。 娘を愛してもいないが 特に嫌悪もしておらず モラハラはするが基本は無関心。 「グラインディー侯爵家を維持するという義務感に殉じる生き方」 を子供に課す。 それは重苦しいが貴族としては普通の在り方だ…。 「…私の生き方と私の名がいずれグラインディー侯爵家の誉れの一つになれるよう精進したく存じております。 騎士団への入団は15歳からなので、来年魔法学院に入学してから3年間は『本気で近衛騎士を目指すかどうか』を検討したいと思います。 なので今は騎士団見習い志願者用の研修会に参加したいのです」 レベッカがそう述べると… 「…随分と雄弁に…頭が回るようになったのだな。少し前までは使用人を怒鳴り散らすのが貴族だと勘違いしているような娘かと思って、何も期待せずにいたが…。 …やっとルース家の家名に恥じぬ人間となる事を決意したのなら良い心がけだ。 高潔な貴族こそがしたたかに生き延び、民を甘やかさず、民へと生きるための糧を還元してやれる存在だ。 今のお前にこの国の現状が正しく理解出来ているとも思えないが…それでもいつか気付いてしまった時のために自分自身を鍛えておくが良い。 肉体の鍛錬による武も。精神の鍛錬による弁論術も」 とイーデンは意味深な言葉を返した。
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