騎士団見習い志願者用研修会

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騎士団見習い志願者用研修会

53bfa719-dafa-4a33-9642-25f5a4d8d560 騎士団見習い志願者用研修会、二週間野営コース…。 学院入学前の10歳から12歳までの子供達を対象としたいわゆる 「騎士団誘致イベント」。 貴族の子弟には 「爵位を継いで領地運営」 「領地運営する家族に協力しつつ生産者や商人へ投資」 「城仕えに仕官(文官)」 「騎士団に入団(武官)」 「平民になって(実家のサポートを受けて)商売」 などといった進路がある。 「選択肢を確保しておきたい」 という意図で研修会に参加した子供達は多かった。 その中には ゲームのメジャールートでの攻略対象者 ドミニク・レヴァイン(第一王子) ロードリック・クロックフォード(第一王子の友人) グレッグ・レヴァイン(第二王子) エリアル・ベニントン(第二王子の友人) の四人も含まれていた。 ドミニクとロードリックはレベッカやヒロインより学年が一つ上の12歳。 この研修会が終わる頃に学院の新年度が始まると同時に学院へ入学となる事もあり、12歳の子供達はこの研修会へは最後の参加となる。 レベッカの他にも 「女騎士になる選択肢も欲しい」 と思う令嬢も居るという事なのか… 女の子の姿もチラホラ見かける。 参加要項では「服装は自由」となっていたが 「動きやすい服装が良いに決まってる」 と思った事もあり… レベッカは冒険者御用達の防具屋で購入した物理攻撃耐性を持つ魔物の皮を使った服を着用している。 腰から短剣と日常使い用のナイフを下げていて 内部空間拡張魔法のかかったウエストポーチも付けている。 一見すると冒険者見習いに見えなくもない格好だ。 一方でレベッカ以外の女の子達はエプロンドレス。 軽装ながらも 「今から野営(プチ・サバイバル)する」 のに向いてるとも思えない。 貧乏貴族の次女・三女といった女の子が多いようで… レベッカに対しては 「雰囲気や仕草からして裕福な高位貴族だ」 と見抜いてしまっているらしく誰も話しかけてはくれない…。 そしてレベッカに冷たい視線を向けるのは何も令嬢達だけに限らない。 爵位を継ぐ予定のない貧乏貴族の次男・三男もしくは庶子である男子達も 「…冷やかしならヨソでやれっての…」 「…金持ち高位貴族のお嬢さんが研修会をナメやがって…」 「…俺達みたいに他に道がない人間の気持ちなんて何も知らないくせに」 と反発を感じている様子。 そうした聞こえよがしの悪口に対して (言い返して無駄にメンタルを汚すより着実に野営術を身に付ける方が私自身のためになる筈) と思う事にして無視する事にした。 前世で岡崎五月だった頃に 「住所不定無職になった場合にどう生きるか?」 を本気で考えた事は何度もあった。 若いうちは働けるが…歳を取れば 結婚もできず子供も持たない喪女など 病気や怪我で働けなくなればアッという間にホームレスへ転落だろう。 「生活保護の申請」という手段は役所の窓口で遮られる。 水際対策は不正受給を無くすために行えば良いものを… 非人間的な受付け職員達は 「申請用紙を渡さずに追い返しても大人しく泣き寝入りするしかないコネなき弱者」 を平気で追い返して殺す鬼畜だらけ。 ネット上で公開されている申請用紙のフォーマットを印刷して、それに記入して「郵送で申請する」という方法があったが… 「本当に生活が困窮している人間がネット端末や印刷機を持っている訳がない」 というのが社会の現実。 それでいて生活保護も障害基礎年金はじめとする日本のセーフティーネットには相当な確率で外国人や帰化人や混血児がぶら下がっていた。 そんな社会でーー 五月は本気でサバイバル術に関して考えた事が何度となくあった…。 お陰で災害を望んだ事は無かったが 「災害用緊急グッズ」 は常備していた。 内部空間拡張魔法のかかったウエストポーチの中身にはサバイバルグッズ他災害用キットも入れている。 怪我をした時用の消毒薬や毒虫に刺された時用の軟膏に痛み止めや整腸剤も。 体力トレーニングのための走り込みやストレッチもバッチリこなしてきた。 この研修会で野営実践して自信を持てれば、処刑エンド以外の破滅エンドも恐るに足らず、だ。 (…私は単に自分らしく生きたいだけだ。脅かされて萎縮するでもなく、この世界の人達に媚びて手懐けるのでもなく。「自分自身でありながら社会貢献できる」のなら、そう有りたいと望むだけ…) レベッカが自分の決意を自分に言い聞かせながら 会場内の隅で孤立したまま研修会の教官達が来るのを待った…。 *************** 研修会教官(兼護衛)の騎士は八名。 ラング・ボネット レイ・チャーチル エセル・アボット ロドニー・デュー デール・フレッカー ドルフ・ラティマー イーサン・ブレイク マーカス・モーズリー どういう人選でこの八名が 「二週間もの間、子供達の面倒を見る役目」 を押し付けられたのかは謎だが… 全員が全員仏頂面をしてる事もあり 「喜んで教官役をしている事は先ずない」 ものと思われる。 「…ここに集まった研修会参加希望者諸君は参加希望者募集要項をよく読んで来てくれているものと思う。 なので参加人数に30人という定員がある事も知っている筈だ。 今この会場にはざっと見て100余人程度の希望者が集まっているので定員オーバーだ。全員参加はできない。 よってこれから参加者選考を行わせてもらう。 去年も参加した者達は判っていると思うが、今年も森の入り口にある野営地まで走って行ってもらう。 因みにこの会場から野営地までの距離は23.8kmある。体力に自信の無い者は早目の棄権をお勧めする」 教官の中でも一番年長らしいラング・ボネットがそう宣告すると 「「「「「はぁぁ〜???」」」」」 という不満そうな声がアチコチから上がった。 (…そうきたか…) とレベッカは走る前から疲れを感じて仏頂面の教官達に目を向けた。 確かに八名で100人以上の子供達を引率して魔物の出る森に入ってキャンプさせるのは、余りにも無理がある。 死人を出さない為には定員を設けて体力勝負をさせるのが手っ取り早い選別方法なのだろう。 「約2km毎に警備兵が立って、棄権者達の保護にあたってくれている。体力の無い者は具合が悪くなる前に申し出て欲しい。 なお野営地まで辿り着く人数が定員を超える場合は先着順での選考になるので、辿り着きさえすれば参加できるという訳では無い事も了解しておいてくれ」 という注意事項が述べられて野営地までの地図が配られた。 皆で会場の外に出て、施設入り口の門の前に設けられたスタートラインに立つにあたっては 「押されて怪我をするかも知れないから小さい子や令嬢は後ろへ」 と言われ不利な後方へと誘導された。 そういう誘導自体が身体の小さい子や女子を初めから間引く気満々の態度なのだが、教官の側では自分達が差別してしまっているという自覚すらないのだろう。 「くれぐれも怪我をしないように」 と本当に心配してくれてる様子でレベッカを最後方へやってくれた…。 (余計なお世話だと言いづらいのは、騎士にとって高位貴族の令嬢はあくまでも「護る対象」だからなんだろうな…) と理解しつつ、レベッカは漏れそうになる溜息を堪えた…。
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